
労働者が失業した場合に、生活や雇用の安定を図るために行われる給付を「失業等給付」と言います。このうち、金銭で支給される給付が、一般的に”失業保険”や”失業手当”と呼ばれているものです。
定年退職した場合でも失業保険はもらえますが、離職時の年齢により受け取れる手当が異なります。定年退職後に失業保険を受給するための条件や注意点を解説します。
目次
定年退職後に失業保険を受給できる?
「定年退職後に失業保険を受給できるか」という問いの答えは、「Yes(受給できる)」となります。
ただ、離職した年齢により受給できる失業保険が異なります。
- 離職時に65歳未満の人:基本手当
- 離職時に65歳以上の人:高年齢求職者給付金
基本手当と高年齢求職者給付金では、給付日数や金額が異なりますが、「失業の状態にあること」という受給条件は共通です。
失業の状態とは、次の条件を全て満たす場合のことをいいます。
- 積極的に就職しようとする意思があること。
- いつでも就職できる能力(健康状態・環境など)があること。
- 積極的に仕事を探しているにもかかわらず、現在職業に就いていないこと。
定年退職後に申請できる失業保険の種類
紹介したとおり、定年退職後に受け取れる失業保険は2種類あり、離職時の年齢によって申請できる失業保険が異なります。
定年退職時に65歳未満の人は「基本手当」、定年退職時に65歳以上の人は「高年齢求職者給付金」の対象者となります。
2つの失業保険の違いをまとめると次のようになります。
基本手当
(60歳以上65歳未満の場合) |
高年齢求職者給付金
(65歳以上の場合) |
|
---|---|---|
概要・目的 | 失業補償機能にあたる制度で、失業者の生活の安定を図り、求職活動を容易にすることが目的 | 高年齢被保険者を対象とした一時金で、基本手当に代わり支給されるもの |
条件 |
|
|
定年退職時の年齢 | 65歳未満 | 65歳以上 |
給付金額(日額) | 過去6ヶ月の賃金日額✕45~80% | 過去6ヶ月の賃金日額✕50~80% |
給付金額(日額)上限 | 7,150円 | 6,815円 |
給付日数 | 90日~150日分
※就職困難者は最大360日 |
30日または50日分 |
基本手当を受給する場合
「基本手当」は、定年退職時に65歳未満の人が申請できます。給付金額や日数は次のとおりです。
申請に必要な被保険者期間
原則として「離職前2年間で雇用保険の被保険者期間が12ヶ月以上ある」人が、基本手当を申請できます。
給付金額(日額)
60歳以上65歳未満の人の場合、基本手当の給付日額は次の計算式に従って決定します。
過去6ヶ月の賃金日額✕45~80%(上限:7,150円)
基本手当は1ヶ月でどのくらい受け取れるのでしょうか。目安としては次表のとおりです。
給与の総支給額(平均) | 失業保険の支給額目安 |
---|---|
月額20万円程度 | 月額13万円程度 |
月額30万円程度 | 月額13万5千円程度 |
※給与の総支給額は、保険料等が控除される前の額。賞与は含まない。
給付日数
定年退職の場合、給付日数は次のとおりです。
被保険者であった期間 | 10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
---|---|---|---|
給付日数 | 90日 | 120日 | 150日 |
給付開始日
定年退職の場合、待機期間の7日間を経過後に失業保険が給付開始します。
失業認定日ごと(原則として4週ごと)に指定した口座に給付金が振り込まれます。
なお、自己都合で退職した場合は、さらに3ヶ月の給付制限があります。つまり、自己都合退職の場合は、給付開始まで「7日間(待機期間)+ 3ヶ月(給付制限)」待つ必要があります。
高年齢求職者給付金を受給する場合
「高年齢求職者給付金」は定年退職時に65歳以上の人が受給できます。給付金額や日数は次のとおりです。
申請に必要な被保険者期間
原則として「離職前1年間で雇用保険の被保険者期間が6ヶ月以上ある」人が、高年齢求職者給付金を申請できます。
給付金額(日額)
65歳以上の人の場合、基本手当の給付日額は次の計算式に従って決定します。
過去6ヶ月の賃金日額✕50~80%(上限:6,815円)
給付日数
定年退職の場合、高年齢求職者給付金の給付日数は次のとおりです。
被保険者であった期間 | 1年未満 | 1年以上 |
---|---|---|
給付日数 | 30日 | 50日 |
給付開始日
定年退職の場合の高年齢求職者給付金の給付開始は、待機期間の7日間を経過後となります。
高年齢求職者給付金は、基本手当と異なり、給付金は一括で指定の口座に振り込まれます。
また、高年齢求職者給付金では、1年間の受給期限があることに注意しましょう。
例えば、本来は給付日数が50日の人であっても、求職申込みが遅れると1年間の期限内に受給を終えられなくなってしまいます。受給期限日を過ぎた分給付日数が短くなってしまうので、退職して離職票を受け取ったら、早急に高年齢求職者給付金の申請をしましょう。
失業保険をもらうまでの流れ(ステップ)
定年退職してから失業保険(基本手当・高年齢求職者給付金)を受け取るまでの流れをステップごとに説明します。
-
離職
失業保険を受け取るには、会社が発行する「離職票」が必要です。離職票は、離職したことを証明する公的な文書で、ハローワークでの受給手続きで必要になります。
会社によって、退職者に離職票の要不要を聞き必要なら発行、退職者全員に発行、退職者からの要望がなければ発行しないなど、対応が異なっているのが現状です。
定年退職後に失業保険を受け取る場合は、退職前に会社に離職票の発行を申し出ておきましょう。
離職票は、定年退職後に会社から自宅に郵送されてくることがほとんどです。
-
受給資格の決定
定年退職後、ハローワークに出向き、失業保険の受給資格と離職理由の確認を受けます。
失業の状態にあり、かつすぐに働けるかどうかが確認されます。
ハローワークが確認する点は、「就職する意思といつでも就職できる能力があり、積極的に求職活動を行っているにもかかわらず、就職できない状態であること」です。
受給資格の決定後、「雇用保険受給資格者のしおり」が交付されます。
-
雇用保険説明会
受給資格決定の約1週間後に「雇用保険説明会」があります。
指定された開催日時に再びハローワークに出向きます。
雇用保険説明会では、受給資格者のしおりに基づき、雇用保険の受給中の諸手続きや失業認定申告書の書き方などの解説を受けます。
この説明会のときに、雇用保険受給資格者証が交付されます。

雇用保険受給資格者証の例
65歳未満で基本手当を受給する場合、後で説明する、原則4週に1回の失業認定日にハローワークに出頭する必要がありますが、失業認定日がいつなのかも雇用保険説明会のときに通知されます。
上記、雇用保険受給資格者証の例では「3-木」という記載が失業認定日を示しており、この受給者の場合、失業認定日は必ず木曜日となります。何月何周目の木曜日なのかは配布されるカレンダー等で確認できます。
-
待期満了
7日間の待期期間が経過すると待期満了となります。失業保険の支払いは預金口座振り込みとなるため、待期満了となっても特に連絡が来たりするようなことはありません。
-
失業の認定
受給資格決定から約3週間後が、一回目の失業認定日となります。
指定される失業認定日にハローワークに出頭して、仕事をしていないか・求職活動をしたか・すぐに働ける状態かどうかの確認を受けます。
認定日は、病気・看護・採用試験の受験など、やむを得ない事情がない限り変更することができません。
-
基本手当の支払い
失業の認定を受けてから1週間程度で指定した普通預金口座に失業保険が振り込まれます。失業手当の場合は、1ヶ月分の金額が振り込まれます。高年齢求職者給付金の場合は、全額が一括で振り込まれます。
-
原則4週に1回の失業認定日
65歳未満で基本手当を受給する場合、失業保険の給付開始後も、原則4週に1回の失業認定日にハローワークで失業の認定を受けます。確認される内容は初回の失業認定日と同様ですが、初回以降も必ず本人がハローワークに出頭しなくてはいけません。
失業認定日から次の失業認定日の約4週間で、原則2回以上の求職活動実績が必要ですが、ハローワーク内での職業相談も求職活動実績として認められます。
失業認定日には必ずハローワークに出向くので、職業相談も一緒に行っておくと良いでしょう。職業相談では失業保険の手続き時に交付される「ハローワークカード」を提示する必要があるため、雇用保険受給資格者証とセットで保管しておきましょう。

ハローワークカードの例
-
支給終了
給付日数分の給付が終了すると支給終了となります。65歳未満で基本手当を受給する場合、失業保険の給付中に再就職した場合も支給終了となりますが、給付残日数等の条件により、再就職手当が受け取れることがあります。
定年退職後に失業保険をもらう場合の注意点3つ
定年退職後に失業保険を受給する場合に注意すべき点を説明します。
特別支給の老齢厚生年金
男性は1961年4月1日より前に生まれた人、女性は1966年4月1日より前に生まれた人は、「特別支給の老齢厚生年金」として、60代前半から65歳になるまでの期間に、厚生年金の一部が受け取れます。
基本手当と特別支給の老齢厚生年金は、同時に受給できないため対象となる人は注意が必要です。
年収制限
次の条件を満たせば失業保険をもらいながら扶養に入ることも可能です。
- 社会保険上の扶養に入れる条件:60歳以上の場合には年収180万円未満
扶養には社会保険上の扶養と税法上の扶養の2つがありますが、失業手当は、社会保険上の扶養判定における収入にカウントされます。よって収入合計によっては扶養から外れてしまう可能性があります。
在職老齢年金制度
60歳以上の人が、働いて厚生年金に加入しながら受け取る老齢厚生年金を「在職老齢年金」といいます。在職老齢年金は、年金額と月給・賞与に応じて減額されることがあります。
- 60歳以上65歳未満の場合の在職老齢年金
年金の基本月額と総報酬月額の合計額が28万円を超えた場合に、老齢厚生年金額が減額されます。
基本月額(年金月額)=老齢厚生年金(年額)を12で割った額
- 65歳以降の在職老齢年金
年金の年金月額と総報酬月額の合計額が47万円を超えた場合に、老齢厚生年金額が減額されます。減額されるのは、47万円を超えた額の1/2の年金額です。
なお、「老齢基礎年金」は支給停止の対象外ですので、全額支給されます。
定年退職後に休養したい場合は?
失業保険を受給する条件のひとつが、いつでも就職できることです。
このため、定年退職後にしばらく休養するなどの理由で、すぐには仕事を探す予定がない人は、失業保険を受け取れません。
ただ、定年退職時に65歳未満で基本手当を受給する人は、この限りではありません。
60歳以上65歳未満での定年退職の場合、離職日の翌日から2ヶ月以内に受給期間の延長申請を行うことで、仕事を探せるようになった後に、失業保険の受給を開始できます。
定年退職により失業保険の受給を延長できる期間は次のとおりです。
最長2年間 = 本来の受給期間(1年) + 休養したい期間(最長1年間)
なお、定年退職時に65歳以上で高年齢求職者給付金を受給する人は、受給期間の延長制度は適用されません。

受給期間延長申請書の例
まとめ
定年退職で失業保険をもらう場合は、離職時の年齢により受け取れる手当が異なります。また、収入や生年月日によっては年金が減額されてしまうこともあるため、失業保険をもらうか年金をもらうかは損得を考えて決定しましょう。