
原則として年間20万円を超える収入を副業から得ている人は、確定申告をします。
毎年確定申告をしている副業サラリーマンが、ふと抱くのが次のような疑問です。
「収入も安定してきたし、副業で起業したらどうだろう・・」
副業での起業にはどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。
起業の基本から副業での起業におすすめできる職業まで紹介します。
目次
起業とは?副業との違い
起業とは、文字通り「新しく事業を起こす」ことで、本来は法人としての事業を指します。
一方、副業とは他に本業がある人が行うサイドビジネスです。副業は、法人として行うことも、個人として行うこともできます。
起業と(起業を伴わない)副業とを比較すると、次のとおりまとめることができます。
起業 | 起業を伴わない副業 |
---|---|
事業主になること | 本業以外の仕事を持つこと |
撤退が難しい | いつでも撤退できる |
社会的信用がある | 社会的信用がない |
自身のスキル・アイディア・能力を対価としてお金をもらう | 時間を対価としてお金をもらう |
届け出が必要
開業届(個人事業の開廃業届出書)や法人設立届出書 |
届け出が不要 |
副業での起業は2種類
まず、起業には2種類あることを押さえておきましょう。
- 起業:新しい事業を始めること(法人として)
- 開業:事業を新たに始めること(個人事業主として)
“起業”と言っても、個人事業主として事業をはじめる場合は、正確には起業ではなく「開業」となります。
次に、日本国内での起業・開業の実態を紹介します。
法務省が公開している「白書・統計(平成26年以降における全国の法務局及び地方法務局で取り扱った登記事件の推移)」によると、2019年の会社の登記(支店所在地における登記を含む)の総件数は124万6,751件で,前年と比較すると0.2%の増加となっています。
すなわち、法人を設立して起業した人が年間約120万人(件)いることになります。
一方、個人事業主としての起業(開業)の実態は次のとおりです。
中小企業庁が公開している「中小企業白書(中小企業・小規模事業者が担う我が国の未来)」によると、2009年から2012年の間で個人事業主は約25万人減少しています。
すなわち、新しく開業した個人事業主よりも廃業する個人事業主の方が多いということになりますが、理由は経営者の高齢化などにより引退するタイミングで後継者がいないケースが増えているためと分析されています。
このように、法人や個人事業主としての起業件数の増減は、ほぼ横ばいとなっています。
本業を辞めずに副業で起業するメリット3つ
会社を設立する場合でも個人事業主になる場合でも、本業を辞めずに副業で起業することには、次のようなメリットがあります。
リスクなく起業のアイデアを試せる
現在はサラリーマンとして勤務している人でも、将来的には本業を辞めて自分の設立した会社一本で生計を立てたいと考え、起業のアイデアを練っている人もいるでしょう。
せっかく良いアイデアを考えても、事業として成功するかは実際にやってみないと分かりません。
副業として起業することで、仮に失敗したとしても本業からの収入は維持できるため、損失を最小限にすることができます。
経営者としてのスキルが身につく
会社員の場合、営業や経理などの業務を自分で行わなくても仕事が与えられ、毎月一定の金額が給与として入金されます。
副業の場合は、仕事の獲得から請求書発行・入出金管理まで1人で行います。
「資金繰り」を常に気にかけるという経営者としてのスキルが磨かれます。
起業資金が貯められる
起業する場合、業種によっては、商品の仕入代金・事務所を借りるための保証金や家賃など、起業時にまとまった資金が必要です。
本業を辞めずに起業することで、起業資金を貯めてから起業することができます。
副業で起業する際のおすすめ職業3つ
副業で起業するメリットを活かせる職業を紹介します。
エンジニア・デザイナー・ライター
企業から業務委託されて仕事を請け負うエンジニア・デザイナー・ライターなどは、副業で起業して行う仕事としては手堅い職種です。
ただ、これらの職種はわざわざ起業しなくてもできるため、副業での収入が500万円に到達してから起業するかを検討しても良いでしょう。
ネットショップ
物を仕入れてネット上で販売するネットショップの運営も起業しなくてもできますが、起業することでショップの信用度が増すというメリットがあります。
講師やアドバイザー
料理・手芸・ネイルといった趣味関連の講師からマネープランニング・転職に関するアドバイザーなど、専門家の助けを必要とする人を支援する仕事も副業での起業に向いています。
講師やアドバイザーとしての専門知識・スキルに加えて、起業することで社会的な信用もアピールすることができます。
副業で法人として起業するには?
法人を設立することの最大のメリットは節税です。個人の所得に対してかかる所得税は、累進課税で所得が増えるほど上がっていきます。最高税率は40%です。
一方、法人税の場合、法人税と法人住民税、法人事業税を合わせた実効税率で34.62%となります。このため、所得500万円を超えたら、法人化を検討すると節税メリットがあるとされています。
会社設立の流れ
法人化して起業するには、会社設立登記をするため「法人設立届出書」を提出します。大まかな会社設立の流れは次のとおりです。
- 基本事項の決定
- 定款作成
- 資本金の払込み
- 登記書類作成
- 登記申請
- 登記後の各種行政などへの手続き
会社設立登記の前には公証役場、登記後には税務署や年金事務所など、様々な場所での手続きがあります。
引用法人設立届出書/国税庁
いきなりの法人化は現実的ではない
サラリーマンが副業で法人を設立することには次のようなデメリットやリスクが伴い、副業を始めた直後の会社設立は現実的ではありません。
本業の就業規則で、従業員の会社設立を禁止している場合が多い
就業規則に違反してしまうと懲戒を含む処分を受ける可能性があります。
本業の会社に知られないように会社を設立した場合、バレやすい
会社を設立すると、登記簿謄本に代表取締役として名前が載ってしまうため、より本業の会社に副業がバレやすくなります。
社会保険の手続きが煩雑
会社を設立した場合、基本的に社会保険に強制加入となるため、本業の会社と自身が設立した会社とで、どちらの保険証を使うかを決定する手続きをする必要があります。
このため、副業による利益が年間500万円を越えた頃に、改めて会社設立を検討する方が良いでしょう。
副業で個人事業主として起業するには?
法人として起業するよりも格段に敷居が低いのが、個人事業主として開業する方法です。
個人事業主のメリット
法人化して起業するよりも節税メリットは少ないですが、サラリーマンが個人事業主になると次のようなメリットがあります。
確定申告で青色申告ができる
個人事業主になることで青色申告が利用できます。青色申告のメリットは複数ありますが、一番大きいメリットは控除される金額がアップすることです。
赤字が繰り越せる
開業した年や事業を拡大するために設備投資した年などは、年間の収入から経費を差し引いたとき、損失(赤字)が出てしまうことがあります。
青色申告するとこの赤字を最長で3年間繰り越すことができます。赤字を繰り越した場合、翌年以降の利益から、繰越損失分を差し引いた金額に対して税金を納めれば良くなります。
屋号で銀行口座が開設できる
個人事業主になると企業でいう会社名にあたる屋号が持てるようになります。そして、屋号で銀行口座を開設できるようになります。
屋号名の事業口座を持ち個人口座と分けることで、事業とプライベートのお金をきっちり分けて管理できるようになります。
個人事業主になるための手続き
本業を持ちながら個人事業主になるには次の手順で手続きします。
- 開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)を記入
- 開業届を税務署に提出
- 所得税の青色申告承認申請書を税務署に提出
青色申告をするには、「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。「青色申告承認申請書」は、開業届と一緒に作成して提出すると良いでしょう。
開業を申請すれば、個人事業主として独立したことになります。

開業届の例

青色申告承認申請書の例
本業を辞めずに副業で起業するデメリット2つ
本業を維持しながら副業で起業することにはデメリットも伴います。
本業に支障が出る可能性がある
「プチ起業」・「週末起業」という言葉がもてはやされていますが、仕事であることに変わりありません。
日本法規情報株式会社による「相談サポート通信 相談者実態調査」によると、副業経験者のうち14%が副業トラブルを経験したと報告しています。
そして、副業でのトラブルの第2位は「本業に支障をきたした」で、24%でした。
起業すると社会的責任が増すため、本業と副業との板挟みになる可能性が高まります。
本業での人間関係に影響する
総務省統計局が2018年7月に発表した「平成29年(2017年)就業構造基本調査」によると、本業を持ちながら副業もしている人の割合は4.0%でした。
2018年は「副業解禁元年」などと呼ばれ、副業解禁の動きが活発化したとはいえ、起業どころか副業をしている人はまだまだ少数派です。
副業のために本業での懇親会などを断ることも増え、同僚とのコミュニケーションが希薄になる可能性があります。
また、副業のために早く退社しようとするあまり、本業の同僚に迷惑がかかってしまうことも否定できません。
気をつけていても同僚への負担が積み重なり、本業での人間関係に影響してしまうことがあります。
副業で起業を成功させるためのコツは
副業での起業を成功するために是非行いたいことを紹介します。
目標を設定する
起業することは事業を営むことです。起業する前に目標を設定します。
具体的には次のような観点で目標を決め、文書としてまとめておきます。
- 収益(月間・年間)
- 目標収益を達成するまでの期間
- 起業することのリスク
- 初期費用
- ランニングコスト
情報収集をする
起業しなくても副業はできます。
副業で起業することにはデメリットがあるため、本当に起業すべきかを情報収集して検討する必要があります。
行政でも起業を積極的に支援しています。まずは、次のような窓口で相談してみると良いでしょう。
「TOKYO創業ステーション」は、起業の相談だけではなく、作業スペースや起業に関する書籍なども使用・閲覧できるようになっています。
副業で起業する際の注意点
副業で起業する場合には次のようなポイントに注意する必要があります。
本業に支障が出ないように計画する
起業することで、起業せずに副業するよりも節税のメリットが高まりますが、それだけ事務手続きが増えます。本業に支障が出ないように、時間的な調整をする必要があります。
事業を継続する
会社や個人事業主には事業を継続、反復して行い、利益を出していくことが求められます。
よって、本業と両立できないなどの理由で、廃業するときには、開業と同様かそれ以上の煩雑な手続きをする必要があります。
会社を設立して起業した場合は解散の登記と清算結了の登記が必要ですし、個人事業主として開業した場合は廃業届の提出が必要です。
一度起業したら、事業を継続することが求められます。
まとめ
副業での起業には節税効果や社会的信用が得られるなどのメリットがある一方、社会的責任も負うことになります。
事業を継続できるかを検討し、事業計画を練って、本当に起業が最善の選択かをまず検討しましょう。