労働者が失業した場合に、生活や雇用の安定を図るために行われる給付を「失業等給付」と言います。
失業等給付は、求職者給付・就職促進給付・教育訓練給付・雇用継続給付の4種類に分けられますが、一般的に失業時に受け取れる金銭として”失業保険”や”失業手当”と呼ばれているものは、求職者給付の「基本手当」にあたります。
失業保険(基本手当)の受給者に対し、早期の再就職を促すために再就職手当という制度があります。再就職手当は、失業保険受給中に就職先に内定した場合に支給されますが、どのような条件を満たせば受け取れるのでしょうか?
再就職手当で受け取れる金額の計算方法も含めて紹介します。
目次
再就職手当とは?
再就職手当は早期の再就職を促すことを目的とした制度です。
失業保険(基本手当)の受給中に再就職が決まった場合、一定の要件を満たしていれば再就職手当としてまとまった金額が受け取れます。
再就職手当を申請するときは、就職先に入社後、次の書類をハローワークへ持参するか郵送で提出します。
- 再就職手当支給申請書(就職先からの証明が必要)
- 雇用保険受給資格者証
- その他、ハローワークが求める書類
再就職手当は、再就職先からの給与とは別に受け取れるので、就職祝い金のようなものと思って差し支えありません。
画像引用再就職手当支給申請書/ハローワークインターネットサービス
再就職手当の受給条件9つ
失業保険(基本手当)の受給中に安定した仕事を確保し、次の支給要件をすべて満たした場合に、再就職手当が支給されます。
-
支給残日数が3分の1以上あること
就職日の前日までの失業保険の支給残日数が、所定給付日数の3分の1以上あることが前提です。
-
仕事の開始が待期満了後であること
失業保険受給の手続き後の7日間は待期期間となりますが、待期期間中に就職し仕事を開始した場合、再就職手当は受け取れません。
-
再就職先が離職前の会社とは無関係なこと
離職前の会社に再び雇用された場合は、再就職手当を受け取れません。また、関連企業や取引先など、資本・人事・取引などの状況から判断して、離職前の会社と密接な関係にある会社に再就職した場合も、再就職手当の対象外です。
-
給付制限がある場合に紹介事業者の条件を満たしていること
離職理由が自己都合退職の場合、3ヶ月間の給付制限があります。給付制限がある場合は、待期期間終了後の1ヶ月間は、ハローワークまたは許可・届け出済みの職業紹介事業者の紹介により就職した場合に限り再就職手当が受け取れます。
-
1年以上勤務することが確実であること
1年間の有期契約などは、継続した雇用とみなされないため、再就職手当は受給できません。
-
雇用保険に加入する条件での就職であること
原則として、再就職先で雇用保険に加入する見込みがあると認められる場合に再就職手当が受け取れます。
-
再就職前の3年間で再就職手当や常用就職支度手当を受け取っていないこと
常用就職支度手当とは、さまざまな要因により就職困難に陥った人が就職した場合に、支給される手当です。過去3年間で再就職手当または常用就職支度手当をすでに受給していた場合は、再就職手当は受給できません。
-
失業保険受給申し込み前から内定していた就職先ではないこと
ハローワークで、失業保険を申請する前に内定していた会社に就職する場合は、再就職手当は受給できません。
-
基本手当日額が再就職手当における上限額以下であること
基本手当日額は、1日あたりの失業保険の受給金額のことで、受給資格が決定するときに通知されます。
再就職手当における基本手当日額の上限額は、離職時の年齢が60歳未満の人は6,165円、60歳以上65歳未満の人は4,990円(2019年8月1日現在の額)です。
再就職手当はいつもらえる?
再就職手当は再就職後、約1ヶ月ほどで所定の口座に振り込まれます。再就職手当の手続きの流れは次のとおりです。
入金は、再就職手当支給決定の約1週間後です。
再就職手当受給方法と計算方法
再就職手当の金額は次の式で算出します。
再就職手当=支給残日数×基本手当日額×給付率
例えば、給付日数が120日で基本手当日額が5000円のAさんが、失業保険(基本手当)の受給中に再就職を決めたとします。Aさんがもらえる再就職手当の金額は、失業保険の給付残日数により異なります。
- 再就職した時点で、支給残日数が80日(給付日数の3分の2以上)だった場合
5000円×80日×70%=280,000円
- 再就職した時点で、支給残日数が60日(給付日数の3分の1以上)だった場合
5000円×60日×60%=180,000円
なお、就職日が2017年1月1日以前の場合は給付率が異なります。
支給残日数が80日の場合で60%、支給残日数が60日の場合で50%です。
再就職手当の申請を忘れてしまった場合は?
再就職手当の申請期間は、再就職日から1ヵ月以内です。
申請を忘れ、この期間内に再就職手当支給申請書が出せなかったとしても、まずはハローワークに連絡しましょう。
再就職手当は、申請期間を過ぎてしまっても、再就職した日の翌日から2年を経過する日までであれば申請できます。
再就職手当の申請中に仕事を辞めることになった場合はどうなる?
再就職先に内定し、再就職手当の申請もして「いざ新しい職場へ!」となったとしても、上手くいくとは限りません。再就職した矢先に、トラブルや事故に見舞われてまた離職することもあるでしょう。
このような場合は、すぐにハローワークに連絡を入れましょう。
再就職先を離職したのが、前職の離職から1年以内であれば、まだ失業保険を受給できる権利があります。
申請中の再就職手当は受け取れませんが、残っている失業保険の給付日数分を受給できます。
就職先に試用期間があっても再就職手当はもらえる?
再就職先に試用期間があった場合でも、再就職手当はもらえるのでしょうか。
答えは「YES(もらえる)」です。
再就職手当が受け取れる条件である「試用期間を含め1年以上の雇用が見込まれ」かつ「試用期間後に雇用保険に加入できる見込み」であれば再就職手当は受給可能です。
ハローワーク以外で就職先を見つけた場合は?
就職先の見つけ方は様々ですが、ハローワーク以外の紹介元から再就職先を確保した場合、再就職手当はもらえるのでしょうか。「再就職手当の受給条件」で紹介したとおり、退職理由により対応が異なります。
会社都合退職の場合
離職理由が会社都合の場合は、「再就職手当の受給条件」で紹介した条件を満たしていれば、どの紹介元から再就職先を見つけたとしても再就職手当はもらえます。
自己都合退職の場合
離職理由が自己都合の場合は、3ヶ月間の給付制限があり、待期期間終了後の1ヶ月間は、ハローワークまたは許可・届け出済みの職業紹介事業者の紹介により就職した場合に限り再就職手当が受け取れます。
派遣社員に再就職手当はある?
派遣社員であっても、紹介した「再就職手当の受給条件」を満たしている限り、再就職手当を受け取れます。
派遣社員の場合、再就職手当の受給条件のうち「1年以上勤務することが確実であること」が満たせているのかが不安になる点です。
まず、契約している派遣会社からの「雇用契約書兼就業条件明示書」を確認しましょう。
条件明示書に契約期間が記載されていても”更新の可能性あり”と記載されていれば、再就職手当の受給資格があります。
アルバイトやパートに再就職手当はある?
再就職手当は、アルバイトやパートでも条件を満たせば受給できます。
雇用形態ではなく、「再就職手当の受給条件」を満たしているかどうかで受給の可否が判断されます。
これらの条件のうち、アルバイトやパートの場合で高いハードルとなるのが、「1年以上勤務することが確実であること」と「雇用保険に加入する条件での就職であること」ではないでしょうか。
特に1年以上の勤務予定の証明は、内定したアルバイト・パート先に書類の記入を依頼する必要があるため、難しい場合も多いでしょう。
ただし、「1年以上勤務することが確実であること」という条件を満たせず再就職手当を受給できない場合も、就業手当が受給できます。
就業手当は、パート・アルバイトが決まったときに、基本手当の支給残日数が3分の1以上あるか、45日以上ある場合に受け取れます。
就業手当の金額は、次の計算式で求められます。
就業手当=支給残日数×基本手当日額×30%
失業保険を最後までもらうか再就職手当をもらうか
再就職を急いでいない場合、失業保険を所定の給付日数分すべてもらってから再就職するか、早期に再就職して再就職手当をもらうかはどちらが得でしょうか。
上記で登場した、給付日数が120日で基本手当日額が5000円のAさんの場合のシミュレーションは次のとおりです。
- 3分の2以上の給付残日数で再就職手当を受け取る場合
再就職手当 = 5000円×80日×70%=280,000円
失業手当 = 5000円×40日=200,000円
受給総額:480,000円
- 3分の1以上の給付残日数で再就職手当を受け取る場合
再就職手当 = 5000円×60日×60%=180,000円
失業手当 = 5000円×60日=300,000円
受給総額:480,000円
- 再就職せず給付日数分失業保険を受給した場合
受給総額(失業手当) = 5000円×120日=600,000円
再就職手当をもらうより、再就職せずに給付日数分すべて失業保険を受給した方が得に見えますが、再就職した場合は、再就職手当の他に就職先の給料を受け取っているので、総収入では早期に再就職をする方が有利です。
まとめ
失業保険受給中に就職先に内定した場合に支給される再就職手当について解説してきました。
再就職先の給与とは別にまとまった金額が支給されるため、早期の再就職を望んでいる場合は、有効活用したい制度です。