公共職業訓練の受け方を徹底解説!失業保険をもらいながら資格を習得する方法

労働者が失業した場合、生活や雇用の安定を図るために失業保険(基本手当)を受け取ることができます。

一方、失業保険の受給の他、原則無料で職業訓練が受けられる公共職業訓練(離職者訓練)を受けられることはあまり知られていません。

ハローワークに行くと、「ハロートレーニング受講者募集」というポスターを見かけることがあります。ハロートレーニングには、公共職業訓練(離職者訓練)・求職者支援訓練・在職者訓練・学卒者訓練・障害者訓練があり、このうち失業保険を受給中の離職者を対象とした訓練が公共職業訓練です。

目次

公共職業訓練とは?

公共職業訓練(離職者訓練)は、失業保険(基本給付)を受給している求職者が、就職に必要なスキルや知識を習得するための訓練を無料で受けられる制度です。

公共職業訓練の概要

公共職業訓練の概要は次のとおりです。

  • 対象者:ハローワークの求職者
  • 受講費用:無料(テキスト代等は自己負担)
  • 訓練期間:3ヶ月~2年間

公共職業訓練の各コースを運営する者は、国・都道府県・委託を受けた民間企業と様々ですが、いずれも申込みはハローワークで行います。

公共職業訓練のコース例

公共職業訓練には、次のような様々なコースが設けられています。

テクニカルオペレーション科・電気設備技術科・機械技術科・住環境計画科・木工科・造園科・介護サービス科・情報処理科など

画像引用機械技術科/徳島県立中央テクノスクール

例えば、徳島県で実施している機械技術科のコース内容を紹介すると次のとおりです。

  • 学科で学ぶ内容:機械工学概論・電気工学概論・NC加工概論・CAD概論など
  • 実技で学ぶ内容:コンピュータ操作基本実習・製図基本実習・NC加工実習など

これらの内容を訓練期間24ヶ月(2年間:訓練日数480日)でしっかりと学べます。1日の訓練時間は、8時40分~16:20までです。

公共職業訓練を受けられる条件は?

実質無料で長期間にわたり学べる公共職業訓練ですが、受講するためには次のような条件を満たす必要があります。

  • 離職していること

失業保険を受給中である必要があります。

  • 失業保険の残給付日数が2/3以上あること

原則として失業保険の所定給付日数の2/3の支給を受け終わる日以前に、受講開始となる職業訓練が対象です。

※所定給付日数が90日の場合は90日分、120日または150日の場合は120日分、240日以上の場合は150日分までの支給が受け終わる日以前に受講開始

  • ハローワークからの受講指示または受講推薦があること

指示や推薦というと難しく聞こえますが、まずハローワークの就職相談で公共職業訓練の受講方法について問い合わせしましょう。

受講したいコースが希望職種とあまりにもかけ離れている場合は、推薦を得られませんが、公共職業訓練が再就職に役立つと判断されれば推薦してもらえます。

  • 訓練開始日前の1年以内に公共職業訓練を受講していないこと

受講したい公共職業訓練のコース開始日の1年以内に、他の公共職業訓練(求職者支援制度の実践コースを含む)を受講していないことが条件です。

  • 公共職業訓練を行う施設が実施する試験に合格すること

ハローワークからの推薦とは別に、公共職業訓練を行う施設が実施する、面接や筆記試験に合格する必要があります。

雇用保険の受給がない求職者でも受けられる!求職者支援訓練とは?

公共職業訓練は原則失業保険の受給者が受けられる訓練ですが、雇用保険を受給していない求職者でも受けられる「求職者支援訓練」もあります。「特定求職者」に認定されると、求職者支援訓練を原則無料で受講できます。

例えば、次のような人が求職者支援訓練の受講対象になります。

  • 雇用保険に加入できなかった人
  • 失業保険を受給中に再就職できないまま支給が終了した人
  • 雇用保険の加入期間が足りずに失業給付を受けられない人
  • 自営業を廃業した人
  • 就職が決まらないまま学校を卒業した人

求職者支援訓練を受けるには、特定求職者に認定される必要がありますが、認定を受けるには次の条件をすべて満たす必要があります。

  • ハローワークに求職の申込みをしていること
  • 雇用保険被保険者や雇用保険受給資格者でないこと
  • 労働の意思と能力があること
  • 職業訓練などの支援を行う必要があるとハローワークが認めたこと

なお、求職者支援訓練のコースは公共職業訓練と同じく、職業訓練検索で探すことができます。

障害のある人が職業訓練を受けるには?

障害のある人の場合、その状況に配慮したきめ細かい訓練である「障害者訓練」を受講することができます。

障害者訓練の実施機関は次のとおりです。

  • 国立職業リハビリテーションセンター(埼玉県所沢市)
  • 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター(岡山県吉備中央町)
  • 一般の職業能力開発校
  • 障害者職業能力開発校(北海道・宮城・東京・神奈川・石川・愛知・大阪・兵庫・広島・福岡・鹿児島)
  • 障害者職業能力開発校(青森・千葉・岐阜・静岡・京都・兵庫)
  • 委託訓練

居住地域の企業・社会福祉法人・民間機関等に委託して実施する障害者職業訓練

申込方法や受講条件は、各個人により異なりますが、問い合わせ先はいずれもハローワークです。受講を希望する人は、所轄のハローワークで相談しましょう。

障害者訓練のコースは公共職業訓練と同じく、職業訓練検索で探すことができます。

公共職業訓練を受けるメリット

公共職業訓練を受ける最大のメリットは、受講料が原則無料かつ失業保険(基本給付)も受給し続けられることです。

受講料が無料

失業保険を受給中の求職者の場合、公共職業訓練の受講料は基本的に無料です。テキスト代等の実費が自己負担となります。

例えば、上記で紹介した機械技術科のコース例は、訓練期間2年間(総訓練時間3000時間)ですが、期間中の訓練費用は無料です(教科書代等の59,000円は自己負担)。

通常、2年間も専門学校やスクールに通ったら数百万円かかるところですが、実費のみでこれだけ長期間学べる機会は公共職業訓練以外にはほぼないでしょう。

就職先も見つけられる

公共職業訓練は再就職を促すための制度です。長期の公共職業訓練には、企業内実習が組み込まれているコースも多くあります。

企業内実習で企業と求職者のニーズが合致すれば、そのまま就職することができます。

例えば、大阪府で平成19年度開講していた建築設計製図科の例では、講座修了者369人のうち就職者は285人で、就職率80.5%でした。

参考職業能力開発/大阪府

講座を受講した人は、ほとんどがその分野についてのスキルはほぼなしの状態からの受講なので、かなり高い就職率と言えます。

また、企業内実習が含まれていないコースを選択した場合でも、引き続きハローワークで職業相談を受けることができます。

資格が取得できる

また、資格が取得できるコースも多くあるため、就職活動に有利に働くでしょう。例えば、上記で紹介した機械技術科のコース例では、在校中に次のような資格や受験資格が得られます。

技能検定3級(機械加工・フライス盤作業)・技能検定3級(機械加工・普通旋盤作業)・危険物取扱者(乙種第1類~第6類)・CAD利用技術者2級・機械設計技術者3級など

公共職業訓練を受講するためのステップ

公共職業訓練の申し込みから受講までの流れは次のとおりです。

  1. 求職申し込み

離職し、失業保険を受給中の人はすでに求職申し込みが終わっているためこのステップは不要です。

  1. 職業相談

ハローワークの職業相談で、利用できる公共職業訓練のコースについて相談します。このとき、どのようなスキルや能力を取得してどのような仕事に結びつけたいのかを説明できるようにしておきます。

なお、公共職業訓練についての相談も失業保険の受給に必要な就職活動の1回分としてカウントされるため、気軽に相談してみましょう。

  1. 受講申し込み

指定の受講申込書に必要事項を記入し、ハローワークで提出します。

  1. 面接・筆記試験などを受験

職業訓練機関が実施する面接・筆記試験などを受験します。各訓練機関のパンフレットやWebサイトでコース概要を確認し、対策しましょう。

  1. 選考結果通知

職業訓練機関から選考結果が通知されます。

  1. 受講斡旋を受ける

合格通知を受け取ったら、再びハローワークで手続きを行います。ハローワークから受講あっせんを受けます。

公共職業訓練を受講するためのコツ

公共職業訓練を受講するための選考を突破するためのコツや、受講申し込みまでの準備について説明します。

選考基準を知る

大阪府の資料によると、平成19年度公共職業訓練の建築設計製図科のコースでは、入校定員460人に対し、応募者822人で実際の入校者が421人でした。

参考職業能力開発/大阪府

すなわち、応募率は178.6%で、合格率が51.2%です。選考の合格率はコースによって全く異なりますが、約50%は狭き門と言えそうです。

この受講者の選考はどのような基準で行われているのでしょうか。厚生労働省によると、次のように”総合的な判断”で選考が行われており、現時点でのスキルや能力の高さ以外の部分も重視されるようです。

職業訓練における受講者の選考については、現在有する技能、知識、適性等の状況から判断して、職業訓練を受講することが再就職のために必要な能力を有することなどを総合的に判断して行っています。

引用よくあるご質問について/厚生労働省

できる限り早く申し込む

公共職業訓練の受講者の選考で重視される点のひとつが、失業保険の残給付日数の多さとされています。公共職業訓練の申込書には、次のようなハローワーク記載欄があり、所定給付日数に応じて応募者区分が分けられています。

引用企業実習付訓練受講申込書/ポリテクセンター関東
A:失業保険受給者で、早期に公共職業訓練に申し込んだ者

B:失業保険受給者で、2/3の残日数がある者

C:失業保険受給者で、残日数が少ないが受講を推薦できる者

応募者区分の意味は、このような意味であると推察されます。

よって、応募者は失業保険の残日数で区分されることから、なるべく早く公共職業訓練に申し込み”A”に区分される方が受講の選考には有利ということになります。

職業訓練開始日にあわせて離職する

公共職業訓練の開始日は、4月開講と9月開講のコースが多い傾向があるものの、開始日はコースによって様々です。また、公共職業訓練の申し込みは、概ね受講開始の約2ヶ月〜3ヶ月前からです。

離職前に受講したい公共職業訓練に目星をつけ、無駄な待ち時間が生じないように離職日を調整しましょう。

公共職業訓練のコースを探すには、職業訓練検索が便利です。

公共職業訓練を受けるべき理由を説明できるようにする

公共職業訓練を受講するには、ハローワークからの推薦を得ることと、職業訓練機関が実施する面接を突破する必要があります。その場で公共職業訓練を受けるべき理由を説明できるように準備しましょう。また、職業訓練後に、学んだことを活かしてどのように働きたいのかも説明できるようにします。

「公共職業訓練を受けさせるメリットがある人物である」ことをアピールすることが大切です。

公共職業訓練を受けるデメリット

公共職業訓練を受けるデメリットはほぼありませんが、留意すべき点があります。

人気の高いコース講座は選考が厳しい

公共職業訓練でには、多くのコースがありますが、人気のあるコースは希望する受講者も多く、倍率は高まります。

各コースの応募倍率は、ハローワークや都道府県が公表している、公共職業訓練の過去の訓練実施結果などで確認できます。

例えば、東京都が実施した職業訓練の実績例によると、次のとおりです。

  • Web動画クリエイター科:定員3人に対し応募者12人で、倍率は4.0倍
  • 高度調理経営科:定員30人に対し応募者7人で、倍率は0.23倍

参考令和2年度4月入校生応募状況/東京都TOKYOはたらくネット

IT・アニメーションやWeb制作の分野が高倍率となっています。

定員割れのコースも少なくないため、事前に調査して応募する公共職業訓練を決定しましょう。

また、公共職業訓練の併願はできませんが、申込書によっては第二希望が書ける訓練もあります。

公共職業訓練は基本的に欠席・遅刻・早退できない

上述の大阪府の公共職業訓練(建築設計製図科のコースの場合)、選考を突破した入校者421人に対し、無事訓練を終えた修了者は369人です。

参考職業能力開発/大阪府

すなわち修了率は87.6%となり、これはあまり高い数字だとは言えません。

修了率を下げるひとつの理由が、公共職業訓練は、基本的に欠席・遅刻・早退できないことです。

欠席する場合は、病気や負傷などやむを得ない理由を、証明書を提出して示さなくてはいけません。さらに、「やむを得ない理由」で欠席する際も、支給単位期間ごとに8割以上の出席率を維持する必要があります。

受講料は無料であることもあり、きちんと受講できない場合は、失業保険の支給が止まったり、退校の処分になることもあります。

公共職業訓練のオススメのコース

公共職業訓練は、将来の就職につなげられるコースを選ぶことが絶対条件です。適したコースは受講者により異なりますが、注目度の高いコースの中から一例を紹介します。

IoT関連コース

AIと並びIoT技術者不足が叫ばれています。ネットワークとプログラミング技術を学び、IoT関連職種への就職を目指すコースは人気です。

参照令和2年度離職者訓練受講生募集パンフレット/ポリテクセンター関東

建築・リフォーム関連コース

新築よりもリフォームをという人は増えています。

建築の幅広い知識を習得して、グループで施工実習に取り組める、建築・リフォーム関連のコースも男性・女性を問わず人気があります。

引用令和2年度離職者訓練受講生募集パンフレット/ポリテクセンター関東

その他の注目コース

その他、医療事務や事務科のコースは、定番の公共職業訓練コースとして常に需要があります。

珍しいコースとしては、有機農業技術者を養成するオーガニックワーカー養成科や、増加する外国人労働者をサポートする人材を育成する定住外国人向け介護初任者研修科などもあります。

公共職業訓練の講座を受講する際に注意する点

公共職業訓練の講座の選び方や受講に関する注意点を説明します。

認定日が設定されている場合は必ずハローワークに行く

原則4週に1回の失業認定日には、ハローワークに行き失業の認定を受ける必要があります。

公共職業訓練の受講中は、代理人(通常は公共職業訓練施設の職員)がハローワークに対して失業の証明を出しているという状態になっているため、基本的には受講者自身がハローワークに出向く必要がありません。

一方、公共職業訓練の中に失業認定日が組み込まれていたり、公共職業訓練中であっても受講者自身で失業認定日にハローワーク出向く必要がある講座もあるため、認定日の対応を必ず確認しましょう。

就職につながらないコースは選択しない

受講する公共職業訓練のコースを倍率の低さだけで選んだり、なんとなく決定してはいけません。自分に合わずに途中で通学を辞めてしまうと、失業保険の給付停止だけでなく、返還などの罰則もあるからです。

ハローワークで開催している公共職業訓練説明会なども利用して、コースの内容を詳細に確認してから申し込むコースを決定しましょう。

まとめ

公共職業訓練(離職者訓練)は、失業保険をもらいながらスキルを身につけるための講座が受講でき、しかも原則無料という非常に有効な制度です。

ただ、欠席や遅刻はやむを得ない理由を証明しない限り原則不可能なので、受講する講座を念入りに検討した上で、申込みをしましょう。

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