
労働者が失業した場合に、生活や雇用の安定を図るために行われる給付を「失業等給付」と言います。
失業等給付は、求職者給付・就職促進給付・教育訓練給付・雇用継続給付の4種類に分けられますが、一般的に失業時に受け取れる金銭として”失業保険”や”失業手当”と呼ばれているものは、求職者給付の「基本手当」にあたります。
この失業保険(基本手当)は、妊娠が理由で退職した人でも受け取れるのでしょうか?
妊娠により退職した人が失業保険をもらうための条件や手続きについて説明します。
目次
妊娠で退職しても失業保険はもらえる?
「妊娠を理由に退職した場合、失業保険はもらえるか」という問いの答えは、“YES(もらえる)”となります。
逆に、「失業保険の受給中に妊娠した場合、残りの受給期間も失業保険がもらえるか」についても、“YES(もらえる)”となります。
妊娠が理由の退職でも失業保険はもらえますが、手続きが必要です。
いつでも働ける状態にあることが失業保険の受給条件のひとつですが、妊娠している人の他、出産・育児・病気やケガですぐに就職できない人も、「いつでも就職できる状態」にないため失業保険の受給資格がありません。
妊娠が理由で働けない上に失業保険ももらえないのでは、不公平です。そこで、妊娠を理由とした受給期間延長申請をして“支給を一時的に保留する”という手続きを行います。
妊娠での退職で失業保険をもらう方法
失業保険(基本手当)の受給期間は、原則として、離職した日の翌日から1年間です。妊娠を理由に退職した場合は、求職活動をして働ける状態ではないため、離職後すぐには失業保険を受給できません。
そこで、妊娠を理由とした受給期間延長の申請をして、失業保険の受給期間を最長4年まで延長します。つまり、失業保険の期間延長手続きをして支給を保留にしておくことで、出産後、働けるようになってから失業保険を受給することができます。
失業保険の受給期間延長とは
離職後1年間の失業保険(基本手当)の受給期間内に、次のような理由により働けない状態が30日以上続いた場合は、受給期間を延長できます。
- 病気やけがで働くことができない(健康保険の傷病手当、労災保険の休業補償を受給中の場合を含む)
- 妊娠・出産・育児などにより働くことができない(不妊治療を含む)
- 親族の介護のため働くことができない
- 60 歳以上の定年等により離職して、しばらくの間休養する(船員だった人は年齢要件が異なる)
なお、育児による受給期間延長は、児童が3歳未満の場合に限ります。
失業保険の受給を延長できる期間は、延長理由により異なります。
病気や妊娠・出産・育児などで延長する場合
最長4年間 = 本来の受給期間(1年) + 働くことができない期間(最長3年間)
定年退職で延長する場合
最長2年間 = 本来の受給期間(1年) + 休養したい期間(最長1年間)
受給期間の延長は、働ける状態になるまで受給を保留しておくものであり、失業保険をもらえる期間が延びるものではない点に注意してください。
受給期間の延長手続きに必要な物
失業保険(基本手当)の受給期間延長の手続きで必要な書類・物や申請先は、次のとおりです。
用意する書類・物 | 提出方法 | 提出・申請先 | |
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病気や妊娠・出産・育児などで延長する場合 |
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(受給資格の決定後は、受給資格決定をしたハローワーク) |
定年退職で延長する場合 |
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(受給資格の決定後は、受給資格決定をしたハローワーク) |
受給期間延長申請書は、ハローワークの窓口で受け取れます。ハローワークまで取りにいけない場合は、郵送してもらうこともできます。
また、妊娠が理由の場合は、「延長理由を証明する書類」として母子手帳を準備しましょう。

受給期間延長申請書の例
受給期間延長の申請と手続きの流れ
妊娠が理由で離職し、一度も失業保険(基本手当)をもらわずに受給期間を延長する場合では、次の流れで手続きします。
また、受給期間延長の手続きができる期間は次のとおりです。
受給期間延長は、離職日の翌日(働くことができなくなった日)から30日経過後、できるだけ早急に申請します。申請の期限は、離職日の翌日から最長4年間(延長後の受給期間の最終日まで)です。
※60歳以上で定年退職後に受給期間延長する場合は、申請期間は離職の日の翌日から2か月以内。

受給期間延長通知書の例
(画像引用:受給期間延長通知書/総務省行政管理局e-Gov)
受給期間延長の注意点
失業保険(基本手当)の受給期間を延長する場合、いくつか注意すべき点があります。
まず、受給期間延長の手続きは早く済ませましょう。
離職日の翌日から4年間は手続きできますが、最長4年間まで延長できる受給期間の中で失業保険の受給も終えなくてはいけません。
例えば、給付日数120日の人が、離職してから3年10ヶ月後に受給期間延長の手続きをした場合、給付日数の半分(約2ヶ月分)は受給できなくなってしまいます。
また、受給期間の延長期間中に、1日でも働くと仕事ができる状態とみなされるため、延長が解除される可能性があります。
お小遣い稼ぎで1日だけアルバイトをしようと思う人もいますが、その1日間の就労で延長が解除され、失業保険も受給できない状態となるため気をつけましょう。
出産後失業保険を受給するとき
出産後、失業保険の受給を開始するときは、ハローワークで「受給期間延長の解除」の手続きを行います。失業保険の受給開始とともに、求職活動も再開する必要があります。
失業保険がもらえる人の条件
失業保険は「働ける状態でありながら失業の状態にある」人のみ受給できます。“失業の状態”とは、次の条件を全て満たす場合のことをいいます。
- 積極的に就職しようとする意思があること。
- いつでも就職できる能力(健康状態・環境など)があること。
- 積極的に仕事を探しているにもかかわらず、現在職業に就いていないこと。
出産を終えたことにより、「2.いつでも就職できる能力がある」という条件を満たしたことになります。
受給期間延長の解除に必要な物
受給期間延長の解除の手続きをするために用意する書類・物は、離職時に失業保険の受給手続きをして一定期間受給をしていたか、延長の解除後がはじめての受給かどうかにより異なります。
失業保険の受給手続きを行わずに受給期間を延長した場合
離職時に失業保険の受給手続きをせずに、受給期間延長の手続きだけをした人は、失業保険の受給手続きに必要な書類も準備します。
- 離職票
- 受給期間延長通知書
- 証明写真2枚
縦3cm×横2.5cmで本人と確認できる写真です。
- 個人番号確認書類および身元確認書類
以下の(1)と(2)のうちいずれかを持参します。
(1)マイナンバーカード
(2)通知カードまたは個人番号が記載された住民票の写し(住民票記載事項証明書)
※(2)の場合は、加えて、運転免許証またはパスポート、写真付き住民基本台帳カードなどうちいずれか1種類も持参します。
- 本人名義の通帳またはキャッシュカード
普通預金口座のみです。失業保険の振込先になります。
- 延長解除の事情が確認できる書類
- 本人の印鑑(認め印・スタンプ印以外)
「延長解除の事情が確認できる書類」は場合によって提示が求められることがあります。妊娠が理由で受給期間延長した場合は、母子手帳を準備しましょう。
また、ハローワークで相談しながら書類を書き直すこともあるため、訂正印として使えるよう印鑑を持っていくと万全です。
失業保険の受給中に延長手続きをした場合
離職時に失業保険の受給手続きをしている人は、受給手続きで受け取った「雇用保険受給資格者証」を忘れずに持参します。
- 雇用保険受給資格者証
- 受給期間延長通知書
- 延長解除の事情が確認できる書類

雇用保険受給資格者証の例
まとめ
妊娠により退職した人が失業保険をもらうための条件や手続きについて説明してきました。受給期間延長の手続きにより出産後に失業保険を受け取ることができますが、延長申請は、給付期間の延長ではなく、給付の開始を遅らせる手続きです。延長期間中に1日でも就労してしまうと延長が解除してしまうので注意しましょう。