副業を始めようと本業の就業規則を確認すると、「兼業や副業は原則禁止。違反した場合は懲戒解雇処分もありえる」といった強烈な一文。
解雇なんて絶対嫌だと、早々に副業を諦める人も少なくありません。
副業禁止は絶対的な規則なのでしょうか?トラブルなく副収入を得る方法を紹介します。
目次
副業禁止は法律で定められていない?
「副業」という言葉はもはや定着していますが、実は、法律用語には「副業」の言葉は存在しません。
よって、法令上は副業に対する規制はなく、副業禁止という場合、禁止しているのは勤務先の企業であり、法律による規制ではありません。
副業したことで本業の会社に損害を与えてしまった場合は、法律により罰せられる可能性がありますが、副業すること自体が法律違反にはなりません。
厚生労働省は企業の就業規則の雛形である「モデル就業規則」を公開しています。
2018年1月にこの「モデル就業規則」が改定し、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という実質副業を禁止している文言が削除されました。
また、同じく厚生労働省が「モデル就業規則」の改定と同時に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」も発行し、副業を促進することで社会全体にも好影響が見込めると明記しています。
政府としては、副業・兼業を禁止するどころか促進したいと考えているのです。
副業禁止にする企業が多い理由5つ
一方、リクルートキャリアによる「兼業・副業に対する企業の意識調査(2019年度版)」によると、社員の副業を推進または容認している企業は30.9%でした。前回2018年の調査での28.8%より2.1ポイント上昇しているものの、副業を禁止している企業の方が多いことは事実です。
では、副業を禁止している企業では、なぜ容認できないのでしょうか。
同じくリクルートキャリアによる「兼業・副業に対する企業の意識調査(2018年度版)」では、副業禁止企業が兼業・副業を禁止している理由についても調査しており、結果は次のとおりです。
第1位 | 社員の長時間労働・過重労働を助長するため | 44.8% |
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第2位 | 労働時間の管理・把握が困難なため | 37.9% |
第3位 | 情報漏えいのリスクがあるため | 34.8% |
第4位 | 競業となるリスクがあるため、利益相反につながるため | 33.0% |
第5位 | 労働災害の場合の本業との区別が困難なため | 22.8% |
働き方改革関連法でも企業に対しては、従業員の労働時間を徹底して管理するよう求めており、本業以外での労働時間が増えてしまっては、各企業で対応しきれません。
「社員の長時間労働・過重労働を助長するため」が副業禁止理由の第1位であることは、当然と言えます。
副業をする前に確認すべき3つのこと
本業の会社とトラブルを起こさないためにも、副業を始める前には、次の点を確認しておきます。
本業が副業を禁止していないことを確認する
特に、副業での取引先が本業と取引関係にある場合などは、機密情報の流出防止の観点から、副業が会社に知られてしまった場合に大問題にまで発展することがあります。
まずは、本業の就業規則を確認し、副業禁止の規定がないかを確認しましょう。
副業が本業と競合していないことを確認する
同業他社で副業する・競合関係にある会社を副業で立ち上げるなどの行為は、本業の企業の利益を侵害しているとみなされます。
本業と競合する副業を行っていることが本業の会社に漏れてしまった場合、副業を容認している企業であっても、懲戒解雇を含む厳しい処分がくだる場合があります。
さらに、特に悪質な場合は、損害賠償を請求される可能性もあります。
スケジュール管理を確実に行う
日本法規情報株式会社による「相談サポート通信 相談者実態調査」では、副業でのトラブルの内容を調査しています。第1位は「本業に支障をきたした」で24%となっています。
副業は本業をおろそかにしないように行うことが鉄則です。
副業を始める前に、そもそも、副業ができる余力があるのかを熟考しましょう。余力がある場合でも、本業と副業とでスケジュールがバッティングしないように、確実なスケジュール管理をすることが大切です。
禁止されているのに、副業をしているのがバレたら解雇?
副業禁止の企業で副業した場合は、即解雇処分になってしまうのでしょうか?
まず、就業規則で禁止されている副業を行った従業員を解雇したい企業が、最低限満たしておかなくてはならない条件を確認しましょう。
懲戒解雇規定が就業規則に定められていること
懲戒解雇するには、必ず就業規則で「懲戒解雇」の規定を設けておかなくてはいけません。
「懲戒処分として解雇される可能性があること」、「どのような場合に懲戒解雇が適用されるのか」がきちんと書かれている必要があります。
就業規則の届け出が行われ周知されていること
労働基準監督署に就業規則を届け出ていることと、社員に周知されていることが必要です。
労働基準監督署への届け出は、労働基準法で規定されていることで、常時10人以上の従業員がいる会社では、就業規則の作成および所轄労働基準監督署への届け出が義務付けられています。
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。
三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
事実関係の確認が行われていること
懲戒事由に該当する違反行為があったのかが明らかではない場合、懲戒処分を行えません。
会社の一方的な決めつけにより懲戒処分してしまうと、懲戒事由なしと扱われ、処分無効となる可能性が高まります。
企業は、懲戒処分を下す前に、必ず事実関係を確認し、当該の従業員の釈明を聞く機会を設けなくてはいけません。
このように、就業先で禁止されている副業をしていることが漏れたとしても、即解雇とはなりません。
知っておくべき!労使間でトラブルになった際の「労働審判」
仮に、副業をしたことにより解雇処分を受けたとして、それが不当な処分であると思われる場合、まずは会社と話し合うべきです。
会社が話合いに応じなかったり、譲歩が見られない場合には、「労働審判」などの法的処置を検討します。
労働審判とは
「労働審判(ろうどうしんぱん)」とは、労働者と事業主との間で起きた労働問題を審理し、迅速に解決することを目的とした裁判所の手続きです。
審理を行うのは労働審判官1名と労働審判員2名で、原則3回以内の期日で審理が終結する非常にコンパクトな手続きです。
「労働審判」の他、「労働裁判」を申し立てることもできますが、労働裁判の場合、第一審の平均審理期間が14.3か月です。
また、労働裁判は専門性が高く、弁護士を代理人につけずに労働者だけで手続きすることが難しいといった問題がありました。
そこで、通常の訴訟に比べて簡易的かつ迅速に解決できるように設けられたのが労働審判制度です。
労働審判手続きの流れ
労働審判は次のような流れで行われます。
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申し立て
申立書・申立手数料・郵便切手・証拠書類の写しなど必要な書類を揃え、地方裁判所に申し立てます。
参考労働審判事件申立のために必要となる書類等/岡山地方裁判所)
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審理
労働審判委員会にて、労働者と事業主双方の言い分を聞き、争いになっている点を整理します。
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調停成立
第3回目の期日には、話し合いによる解決に至った場合は「調停成立」、トラブルの実情に応じた解決案を提示する「労働審判」のいずれかに至ります。
「労働審判」となり、さらに異議申し立てがあった場合は、訴訟手続に移行します。
引用労働審判申立書/広島地方裁判所
副業禁止の就業規則にまつわる実際の裁判例
副業禁止の企業で副業し、懲戒解雇処分が妥当と判断された裁判事例も複数存在します。
東京貨物社事件
展示会場の賃貸等の事業を行う企業において、営業本部長営業企画室課長の職にあったA氏が、勤務先企業と同業のX会社を設立。勤務先企業と競合する副業を行っていました。勤務先企業は、同社の就業規則に違反したとして、出勤停止処分後にA氏を解雇しました。
A氏は解雇を不服として裁判所に提訴したものの、裁判所は就業規則に違反したことは明白として正当な解雇と認めています。
勤務先会社の就業規則では、在籍したまま許可なく他社に就業しないこと、およびその内容によっては出勤停止処分や即時解雇をすることが定められていました。
合資会社阿部タクシー事件
タクシー会社の従業員B氏が自身のダンプカーを購入し、他の土建会社に雇用されて継続的に土砂運搬業務に従事していました。B氏は二重勤務を禁ずる勤務先タクシー会社の就業規則に基づき、懲戒解雇されています。
懲戒解雇処分後、B氏は処分を不服とし提訴しましたが、高額なダンプカーを購入しており限定的なアルバイトとは言えないことと、懲戒解雇されるまでの期間中、有給休暇や病欠の取得手続きをせずに欠勤していたことから、就業規則に定めた懲戒解雇が有効と認められました。
副業で本業と競合する会社を立ち上げたり、休暇の申請をせずに無断欠勤を続けるなど、副業による解雇が有効と判断された事例は、いずれも副業したこと自体ではなく、本業に被害を与えるような行為を伴っていることがわかります。
公務員の副業は原則禁止されている
一般企業では、副業を容認する方向に向かいつつありますが、公務員の場合は状況が異なります。
公務員は基本的に副業禁止
国家公務員と地方公務員による営利企業での副業や会社の設立は違法であると、国家公務員法第103条および第104条、地方公務員は地方公務員法第38条で明確に定められています。
第百三条 職員は、商業、工業又は金融業その他営利を目的とする私企業(以下営利企業という。)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員、顧問若しくは評議員の職を兼ね、又は自ら営利企業を営んではならない。
引用国家公務員法
また、営利企業以外で副業を行う場合でも、許可申請が必要と定められています。
第百四条 職員が報酬を得て、営利企業以外の事業の団体の役員、顧問若しくは評議員の職を兼ね、その他いかなる事業に従事し、若しくは事務を行うにも、内閣総理大臣及びその職員の所轄庁の長の許可を要する。
引用国家公務員法
ただし、公務員は副業禁止とはいえ、次のような仕事は、“兼業・副業”に該当しないとされています。
- 転売ビジネス
- 小規模不動産投資
- 資金運用(株式投資・FX・仮想通貨取引など)
これらは、個人の資産運用とみなされることが多いため、営利企業との兼業・副業には該当しないというのが一般的な解釈になっています。
副業が会社にバレてしまう事例5個
副業が会社にバレる場合、その原因は意外なところにあります。
先輩副業者が実際に経験した”副業バレ事例”を知って、対策しましょう。
住民税の変動
住民税の税率は、市町村により若干の差異があるものの、基本的に課税所得の約10%です。
副業により所得が増えると住民税も高くなるため、「本業の給与額と釣り合わない住民税額」が会社に知られて、副業がバレることになります。
原則として、副業の所得金額の合計額が20万円を超える人は、確定申告をすることになります。確定申告をすると、原則として市町村が副業での所得に対する住民税額を記載した「税額決定通知書」を本業の会社宛に送付します。
よって、会社は税額決定通知書の住民税の税額から、会社の給与以外にどのくらいの稼ぎがあるのかを推測することが可能です。
住民税の変動から副業がバレることを防ぐための対策は、会社に税額決定通知書が送付されないようにすることです。
確定申告書に「住民税に関する事項」の欄があり、副業での所得に関する住民税の納付方法が指定できるようになっています。ここで「自分で納付」に〇をつけます。
口外してしまう
内緒にしていた副業の話を自分から口外してしまうというお粗末な理由で、副業がバレることが少なくありません。
特に注意したいのが、本業に仲が良い同僚がいる場合です。
ほぼ友達という同僚には気が緩み副業のことを話してしまいがちです。話を聞いた同僚が副業に興味がない場合、就業規則で副業が禁止されているということすら知らず、「○○が副業しているらしい」と悪気なく他の同僚に話してしまいます。
うっかり口外してしまうミスを防ぐには、やむを得ない場合を除き、仕事の話だけにすることです。「急に仕事熱心になったな」と思われる程度でデメリットはありません。
また、雑談でも、社外の人は極力話に登場させずに、同僚の話や社内の人の噂話などで切り抜けましょう。
急な変化から悟られる
リクルートキャリアによる「兼業・副業に対する個人の意識調査(2019)」によると、47.3%が副業に興味はあるものの具体的には行動できていないと回答しています。副業に興味のある人の割合が高まっており、多くの人が同僚の副業開始の動きには敏感になっています。
次のような変化で、同僚が副業を始めたと予測できるものです。
- 就業後には飲みに行っていた人が急に付き合いが悪くなった
- 残業が急に減った
- 週末は趣味を楽しんでいる人が急に趣味の話をしなくなった
副業をしなくても生活の変化は必ず起こるものですが、ポイントは“急に”これまでやっていたことをしなくなることです。
副業を悟られたくない場合は、スロースタートで徐々に生活スタイルを変化させるようにしましょう。
また、勤務時間以外の過ごし方に関する話を極力避けることでも、生活面の変化を悟られるきっかけを減らせます。
副業を目撃されてしまう
店舗や会社に出向いて行う副業の場合、勤務中の姿を目撃されてしまう可能性が高まります。
また、同僚や上司の家族に目撃される場合もあります。副業を目撃されないようにするには、副業場所を注意深く選ぶことです。会社所在地や同僚が住んでいる地域を避ければ、目撃されるリスクが減ります。
ブログで広告収入を得る副業など、在宅でできてインターネット上で完結する仕事なら副業を目撃されないと考えがちですが、気を抜いてはいけません。
ネット上では本名を名乗らないようにすることはもちろん、「○○へ行った」など行動記録から身元がバレることがあるため、ネット上で公開する情報は注意して入力します。
副業と本業の連絡先を取り違えてしまう
副業に関する連絡事項をうっかり本業の関係者に送信してしまうミスから、副業がバレることがあります。
副業がバレるだけならまだしも、副業が本業のライバル会社だったりする場合は、機密情報の漏えいとなり、取り返しのつかない事件に発展することすらあります。
PC・スマホ・メールアドレス・電話番号・クラウドサービスのアカウントなどを本業用と副業用に分けて、連絡先の取り違えが起こりにくいようにすることが大切です。
本業と両立しやすい人気の副業
副業の種類は様々ですが、本業と両立しやすい・誰でもできる・リスクが少ないという観点から人気の副業を紹介します。
アンケートモニター
「アンケートモニター」とは、モニターサイトに登録し、サイト内のアンケートに回答することでポイントを稼ぐというものです。質問に対し、回答を記入欄に入力するだけの作業で誰でも簡単にできます。
例えば、「1週間のうちよく見るTV番組は何ですか?」という質問や、「好きなアパレルブランドは何か?好きな理由は?」などの質問があり、回答には特別なスキルが不要なものばかりです。
アンケートモニターはスマホ1台あれば、通勤途中などのスキマ時間でいつでもできるため、会社員には都合が良い副業です。
一方、誰でもできる作業なので、得られる報酬はお茶代程度と考えましょう。
○アンケートモニターの平均相場:月2,000円〜10,000円程
試験監督
語学など各種試験や検定の試験監督も副業しやすい仕事です。
試験は、土日祝日に行われるものが大半なので、平日勤務の会社員なら本業の休日に働けます。
試験監督の仕事は多くが1日限りの単発で、長くて2-3日程度です。毎月の定期収入は見込めませんが、朝から夕方までの案件が多いため一日でまとめて働けます。
○試験監督の平均相場:月5,000円〜20,000円程
UberEats(ウーバーイーツ)配達員
料理のデリバリーサービス「ウーバーイーツ」は、2020年初旬には新型コロナウイルス対策で、外食ではなく料理を配達してもらって自宅で食事をするという人が急増したことで、一気に有名になりました。
ウーバーイーツの配達員は、料理の注文が入ると料理を店舗に取りに行き、受け取って注文者の元に配達します。また、報酬は配達に要する移動距離や配達数により決まります。
勤務時間が自由に決められるので、1日に1時間だけなど無理なく働くことができます。
○UberEats(ウーバーイーツ)配達員の平均相場:月10,000円〜60,000円程
YouTubeでの動画投稿
動画をYouTubeに投稿し、広告収入を得るYouTuberも副業として人気です。
勤務時間が完全に自由で、勤務地に出向く必要もなく、本業との両立が非常にしやすいビジネスです。
ただ、報酬を得られるYouTuberになるまでに視聴者を増やす努力が必要で、報酬発生まで最低でも3ヶ月かかるといわれています。
○YouTubeでの動画投稿の平均相場:月0円〜上限なし
シェアビジネス
手持ちの使っていない服・家電・車などを人に貸し出すことで収入を得る「シェアビジネス」は、初期費用がまったくかからないため副業として始めやすいビジネスのひとつです。
例えば、出張する期間だけ自宅を貸し出すことも可能です。
貸し借りはWebサービスやアプリで簡単に成立でき、ますます敷居の低いビジネスになっています。
○シェアビジネスの平均相場:月100円〜数万円
ネットワークビジネス
ネットワークビジネスは、会員が勧誘により別の会員を増やすことで利益を得るビジネスです。
仕組みを売る・お金でお金を生むというビジネスで、作業時間はまったく自由で誰でもできるため、本業と両立しやすい副業として人気です。
ネットワークビジネス自体は新しいものではありませんが、以前は直接電話をかけるくらいしか集客方法がありませんでした。現代では、インターネットの発達により、Web・アプリ・動画などあらゆる集客手段があり、格段に参入しやすくなっています。
○ネットワークビジネスの平均相場:月5,000円〜上限なし
副業禁止企業の会社員が安全に副収入を得る方法
本業が副業を禁止している場合でも、バレないように副業するのではなく、正攻法で副収入を得る方法を紹介します。
会社と話し合って許可を得る
本業の就業規則に副業禁止と明記してあったとしても、就業規則を更新する機会がなかっただけという場合も多々あります。
総務人事などに副業の必要性を説明すれば、容認してくれるケースもあります。
就業規則で禁止されているから駄目だと思い込まずに、まずは、社内コミュニケーションを取り、堂々と副業できる道を模索しましょう。
副業とみなされにくい仕事を選ぶ
副業と気負わずに、趣味の延長や資産運用の一部として行える副業もたくさんあります。
例えば、ハンドメイド商品の販売やイラスト・デザインの販売などです。
このような、元々持っていた趣味を活用した副業であれば、大きく稼がない限り趣味の延長とみなしてもらえます。
また、フリーマーケットで家庭の不用品を販売することは、副業とはみなされません。
同様に、投資も個人的な資産運用と解釈されることが大半です。
まとめ
副業をしたことで本業を失ってしまうことほど残念なことはありません。
副業の量ではなく、本業に損害を与えるものではないかという視点で副業選びをしましょう。
副業禁止企業が恐れているのは、社員が副業することではなく、副業により企業に被害が及んでしまうことです。