労働者が失業した場合に、生活や雇用の安定を図るために行われる給付を「失業等給付」と言います。
失業等給付は、求職者給付・就職促進給付・教育訓練給付・雇用継続給付の4種類に分けられますが、一般的に失業時に受け取れる金銭として”失業保険”や”失業手当”と呼ばれているものは、求職者給付の「基本手当」にあたります。
この失業保険(基本手当)の手続きで提出すべき必要書類はどのようなものがあるのでしょうか。中には、離職前に準備しておく書類もあるため、早急に確認しておきましょう。
目次
失業保険をもらうための必要書類リスト
失業保険(基本手当)の受給手続きをするときの必要書類や持ち物は次のとおりです。離職前に準備すべき書類も含まれているため、注意しましょう。
離職票
離職票は、離職した会社が発行した離職証明書に基づいて、ハローワークが交付する書類です。
ハローワークから会社に郵送して、その後、会社から離職者に郵送するため、手元に届くのは退職後10日ほど経ってからです。
退職前に、会社に離職票の発行依頼と送付先の住所の確認をしておきましょう。
雇用保険被保険者証
離職する会社に入社した時に交付されているものです。退職するときに会社から受け取ります。
証明写真2枚
縦3cm✕横2.5cmのサイズで本人と確認できる写真です。
個人番号確認書類
失業保険の手続きには、個人番号(マイナンバー)の記載が必須です。確認書類として以下の(1)と(2)のうちいずれかを持参します。
- マイナンバーカード
- 通知カードまたは個人番号が記載された住民票の写し(住民票記載事項証明書)
身元確認書類
個人番号確認書類としてマイナンバーカード以外を提出する場合は、運転免許証またはパスポートなどの身元確認書類が必要です。
詳しくは、「身元確認に使用できる書類は?」で後述します。
本人名義の通帳またはキャッシュカード
普通預金口座のみです。失業保険の振込先になります。
本人の印鑑
認め印でも構いませんが、スタンプ印は不可です。ハローワークでの手続き時に、訂正事項がある場合に訂正印として使います。
船員であった人は船員保険失業保険証または船員手帳
会社都合退職として認めてもらうための書類がある人はそれらの書類
詳しくは、「会社都合退職として認めてもらうための書類とは」で後述します。
身元確認に使用できる書類は?
平成28年1月から、失業保険(基本手当)の申請時にマイナンバーの記載が必要になりました。また、厚生労働省は、マイナンバーを使用する手続きでは厳格な本人確認を行うと発表しています。
マイナンバーを用いる手続では、なりすまし防止のため、ハローワークにおいて、①番号確認(正しい番号であることの確認)、②身元(実在)確認(番号の正しい持ち主であることの確認)を行います。
引用雇用保険の給付を受ける皆さまへ/厚生労働省
マイナンバーカードを持参できない場合は、通知カードまたは個人番号が記載された住民票の写し(住民票記載事項証明書)を持参しますが、その場合、別に身元確認書類も必要になります。
身元確認書類として使える書類は、次のとおりです。
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以下の書類のいずれか一つ
- 運転免許証
- 運転経歴証明書
- 旅券(パスポート)
- 身体障害者手帳
- 精神障害者保健福祉手帳
- 療育手帳
- 在留カード
- 特別永住者証明書
- 写真付き身分証明書
- 写真付き社員証
- 官公署が発行した写真付き資格証明書など
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上記の書類がない場合、以下の書類から2つ以上
- 公的医療保険の被保険者証
- 年金手帳
- 児童扶養手当証書
- 特別児童扶養手当証書など
会社都合退職として認めてもらうための書類とは
本当は会社都合退職なのに自己都合退職と離職票に記載する会社もあります。該当する人は、本来は会社都合退職である根拠を、失業保険(基本手当)の手続き時に持参します。離職票とこれらの根拠資料を元に、ハローワークが会社都合退職として扱うかを判断します。
根拠資料として使用できる書類や記録は、例えば次のようなものです。
退職合意書
一番揉めずに済むのは、離職時に会社から「会社都合退職とする」旨を明記した退職合意書を受け取っておくことです。合意済みであれば離職票も会社都合退職で発行されるはずですが、万が一、自己都合退職と記載されてしまった場合でも、ハローワークに退職合意書を証拠として示すことができます。
パワハラや退職勧奨があったことを示す録音・メモ・記録など
パワハラ・セクハラや嫌がらせ、口頭での退職勧奨などがあったことの証拠をできるだけ集めます。会話の録音やメールのキャプチャなどが取得できれば良いですが、難しい場合でも日時や発言内容やそのときの状況などを細かくメモに残します。
過度な残業を示す記録
月45時間以上の残業が離職前の3ヶ月間続いていたために離職する場合は、会社都合退職となりますが、給与明細書では実働と残業が分かるように記載されていない場合がほとんどです。タイムカードや勤務記録表などのコピーを取っておきましょう。
勤務地や業務内容変更の記録
オフィス移転により通勤困難になった場合・本人の承諾のない不当な転勤命令があった場合・業務内容が著しく変わった場合、このような理由による退職も会社都合退職にすることができます。入社時の契約書類および勤務地・業務内容を変更する旨の指示を示す書類を準備しましょう。
会社都合退職として認めてもらうための書類集めは離職後には難しいため、離職前に少しずつ準備しておきましょう。
失業保険の受給資格
失業保険(基本手当)を受け取るには、受給資格を満たしている必要があります。
原則として「離職前2年間で雇用保険の被保険者期間が12ヶ月以上ある」人が受給できます。
ただし、倒産・解雇等の理由により離職した場合、やむを得ない理由により離職した場合は、離職前1年間に被保険者期間が通算して6ヶ月以上必要です。
また、失業保険は「失業の状態にある」人のみ受給できます。
失業の状態とは、次の条件を全て満たす場合のことをいいます。
- 積極的に就職しようとする意思があること。
- いつでも就職できる能力(健康状態・環境など)があること。
- 積極的に仕事を探しているにもかかわらず、現在職業に就いていないこと。
すなわち、次の就職先が決定していたり、内定している人は受給できません。
また、次のような人も、受給することができません。
- 妊娠・出産・育児・病気やケガですぐに就職できない人
- 就職するつもりがない人や家事や学業に専念したい人
- 会社などの役員に就任している人
※活動や報酬実績がない場合は、ハローワークで別途確認必要 - 自営業者
自己都合退職と会社都合退職の違いは?
従業員が会社を退職するときの種類は、自己都合退職・会社都合退職と2つに分類されます。失業保険(基本手当)の受給の観点では、両者の違いはどのようなものでしょうか。
自己都合退職とは
自己都合退職とは、退職の要因が主に従業員側にある場合を指します。
例えば、次のような理由で退職する場合です。
- 会社に不満を抱いたため
- 転職・起業をするため
- キャリアアップを目指すため
- 大学・大学院への進学や海外留学のため
- 病気の治療・療養のため
- 専業主婦・主夫になるため
- 引っ越しのため
- 妊娠・出産・育児・介護のため
- 懲戒解雇
退職者が雇用保険上の「特定受給資格者」にあたらない場合の退職が、自己都合退職となります。
懲戒解雇が自己都合退職扱いなのは意外かもしれません。懲戒解雇を決定するのは会社側ですが、その原因は、従業員が法令や就業規則などに違反したことが原因であるため、失業保険の給付日数は自己都合退職の場合と同等となります。
会社都合退職とは
会社都合退職とは、退職者が雇用保険上の「特定受給資格者」に該当する場合の退職のことです。
次のような理由により退職する場合には、会社都合退職となり特定受給資格者になりえます。
- 会社の倒産
- 特定の事業所・支店の廃止や撤退
- リストラ・人員削減のための退職勧奨
- 人員整理を目的とする早期退職制度に従業員が応募
- 慢性的な長時間残業
- 月45時間以上の残業や休日出勤が3ヶ月以上連続しているなど
- 会社の事情による休職命令を受けて、3ヶ月以上経っても命令が解除されない
- 事業所移転により通勤が困難になった
- 給与の支払いの遅延や未払いがある
- 給与の大幅減額(目安として15%以上の減額)の提示があった
- 会社から事前に説明を受けた待遇や業務内容と、実際の待遇や業務内容が異なっていることが判明した
- 上司などからのパワハラ・セクハラを受けた
- 同僚からのいじめを受けた。
- 会社の法令違反が発覚した
自己都合退職であっても会社都合退職であっても、ハローワークから配布される雇用保険受給資格者証の「12.離職理由」欄に離職理由を示すコードが明記されます。
マイナンバーに関する注意点
マイナンバーカードを持っていない場合は、上記で説明したとおり「通知カードまたは個人番号が記載された住民票の写し(住民票記載事項証明書)+身元確認書類」を用意し、失業保険(基本手当)の手続き時に持参します。
手続き直前に慌てないためにも、次の注意点を確認しておきましょう。
マイナンバーカードを新規に発行する場合
マイナンバーカードを作っていない場合は、申請して発行してもらうことができます。
マイナンバーカードの申請は、オンラインで申し込みできます。郵送でも申請できます。ただし、申請は簡単なものの、マイナンバーカードが到着するまで最低でも約2~3週間かかるため、余裕を持って申請しましょう。
マイナンバーカードを再発行する場合
マイナンバーを一度発行したものの、紛失してしまった場合は、再発行の手続きができます。市町村役場に出向き、再発行手続きを行いますが、再発行の場合、マイナンバーカードが到着するまで約1ヶ月(場合によっては2ヶ月)かかるため注意しましょう。
個人番号が記載された住民票の写しを利用する場合
マイナンバーカードも通知カードもない場合は、個人番号が記載された住民票の写し(住民票記載事項証明書)を取得します。住民票の写しの発行手続きのときに「マイナンバー記載あり」と指定して発行してもらいます。
失業保険をもらうまでの流れ(ステップ)
離職してから失業保険(基本手当)を受け取るまでの流れをステップごとに説明します。
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離職
失業保険を受け取るには、会社が発行する「離職票」が必要です。離職票は、離職したことを証明する公的な文書で、ハローワークでの受給手続きで必要になります。
会社によって、退職者に離職票の要不要を聞き必要なら発行、退職者全員に発行、退職者からの要望がなければ発行しないなど、対応が異なっているのが現状です。
退職後に失業保険を受け取る場合は、退職前に会社に離職票の発行を申し出ておきましょう。
離職票は、退職後に会社から自宅に郵送されてくることがほとんどです。
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受給資格の決定
退職後、ハローワークに出向き、失業保険の受給資格と離職理由の確認を受けます。
失業の状態にあり、かつすぐに働けるかどうかが確認されます。
ハローワークが確認する点は、「就職する意思といつでも就職できる能力があり、積極的に求職活動を行っているにもかかわらず、就職できない状態であること」です。
受給資格の決定後、「雇用保険受給資格者のしおり」が交付されます。
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雇用保険説明会
受給資格決定の約1週間後に「雇用保険説明会」があります。
指定された開催日時に再びハローワークに出向きます。
雇用保険説明会では、受給資格者のしおりに基づき、雇用保険の受給中の諸手続きや失業認定申告書の書き方などの解説を受けます。
この説明会のときに、雇用保険受給資格者証が交付されます。
後で説明する、原則4週に1回の失業認定日にハローワークに出頭する必要がありますが、失業認定日がいつなのかも雇用保険説明会のときに通知されます。
上記、雇用保険受給資格者証の例では「3-木」という記載が失業認定日を示しており、この受給者の場合、失業認定日は必ず木曜日となります。何月何周目の木曜日なのかは配布されるカレンダー等で確認できます。
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待期満了
7日間の待期期間が経過すると待期満了となります。また、上記で説明したとおり、自己都合退職の場合は給付制限があるため、待期満了の翌日からさらに3ヶ月間は失業保険が支給されません。
基本手当の支払いは預金口座振り込みとなるため、待期満了となっても特に連絡が来たりするようなことはありません。
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失業の認定
受給資格決定から約3週間後が、一回目の失業認定日となります。
指定される失業認定日にハローワークに出頭して、仕事をしていないか・求職活動をしたか・すぐに働ける状態かどうかの確認を受けます。
認定日は、病気・看護・採用試験の受験など、やむを得ない事情がない限り変更することができません。
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基本手当の支払い
失業の認定を受けてから1週間程度で指定した普通預金口座に1ヶ月分の失業保険が振り込まれます。
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原則4週に1回の失業認定日
失業保険の給付開始後も、原則4週に1回の失業認定日にハローワークで失業の認定を受けます。確認される内容は初回の失業認定日と同様ですが、初回以降も必ず本人がハローワークに出頭しなくてはいけません。
失業認定日から次の失業認定日の約4週間で、原則2回以上の求職活動実績が必要ですが、ハローワーク内での職業相談も求職活動実績として認められます。
失業認定日には必ずハローワークに出向くので、職業相談も一緒に行っておくと良いでしょう。職業相談では失業保険の手続き時に交付される「ハローワークカード」を提示する必要があるため、雇用保険受給資格者証とセットで保管しておきましょう。
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支給終了
給付日数分の給付が終了すると支給終了となります。失業保険の給付中に再就職した場合も支給終了となりますが、給付残日数等の条件により、再就職手当が受け取れることがあります。
まとめ
失業保険(基本手当)の手続き時の必要書類には、離職前から準備しておくべきものが多く含まれます。特にマイナンバーカードや会社都合退職にするための書類などは、集めるために数週間必要です。離職前は何かと落ち着かないときですが、冷静に準備をしていきましょう。