労働者が失業した場合に、生活や雇用の安定を図るために行われる給付を「失業等給付」と言います。
失業等給付は、求職者給付・就職促進給付・教育訓練給付・雇用継続給付の4種類に分けられますが、一般的に失業時に受け取れる金銭として”失業保険”や”失業手当”と呼ばれているものは、求職者給付の「基本手当」にあたります。
「実は失業保険の受給資格を満たしておらずもらえない」と離職後に知ることほど落胆するものはありません。本記事では、失業保険を確実に受給するために退職前に確認しておくべきポイントを紹介します。
目次
失業保険をもらうために、知っておくべき受給資格
失業保険(基本手当)を受け取るには、受給資格を満たしている必要があります。
原則として「離職前2年間で雇用保険の被保険者期間が12ヶ月以上ある」人が受給できます。
ただし、倒産・解雇等の理由により離職した場合、やむを得ない理由により離職した場合は、離職前1年間に被保険者期間が通算して6ヶ月以上必要です。
また、失業保険は「失業の状態にある」人のみ受給できます。
失業の状態とは、次の条件を全て満たす場合のことをいいます。
- 積極的に就職しようとする意思があること。
- いつでも就職できる能力(健康状態・環境など)があること。
- 積極的に仕事を探しているにもかかわらず、現在職業に就いていないこと。
すなわち、次の就職先が決定していたり、内定している人は受給できません。
また、次のような人も、受給することができません。
- 妊娠・出産・育児・病気やケガですぐに就職できない人
- 就職するつもりがない人や家事や学業に専念したい人
- 会社などの役員に就任している人
※活動や報酬実績がない場合は、ハローワークで別途確認必要 - 自営業者
失業保険をもらえない場合もある!?知っておきたいこと
失業保険の受給資格には盲点があり、失業保険を受給できると思っていたのに実は対象者ではなかったということも少なくありません。失業保険をもらえないケースを紹介します。
雇用保険の加入期間が短すぎる場合
原則として「離職前2年間で雇用保険の被保険者期間が12ヶ月以上ある」人が失業保険を受給できると説明しました。この”被保険者期間”の算出方法が誤解しやすいため、さらに詳しく説明します。
・自己都合退職の場合
自己都合退職で離職した場合、離職前2年間で雇用保険の被保険者期間が12ヶ月以上あることが必要です。
この被保険者期間とは、単に雇用保険に加入していた期間ではないことに注意しましょう。被保険者期間の出し方は、まず離職日から過去に遡って1ヶ月ごとに区切ります。そして、賃金支払日数が11日以上ある月を”被保険者期間1ヶ月分”とカウントします。
よって、なんらかの理由で3週間欠勤した月があった場合、その月は被保険者期間とカウントされません。
ただ、離職した会社の前に勤務していた会社(前前職)でも雇用保険に加入していた場合は、前前職の離職日から次の会社の就職日の空白期間が1年未満であれば、前前職の雇用保険加入期間も合算できます。
・会社都合退職の場合
会社都合退職で離職した人など特定受給資格者・特定理由離職者の場合も、被保険者期間の算出方法は自己都合退職の場合と同様ですが、必要な被保険者期間が異なります。
特定受給資格者・特定理由離職者は、”離職前1年間で被保険者期間が通算して6か月以上”が失業保険をもらうために必要な加入期間になります。
副業収入がある場合
失業保険の受給条件のひとつに「現在職業に就いていないこと」があります。
雇用保険に加入していた会社を退職した後も副業を続けていた場合は、受給条件を満たせなくなるため、失業保険は受け取れません。失業保険は仕事を失った人の生活を安定させ、再就職を促進するための制度だからです。
ただ、次の条件を満たせば、失業保険を受給しながら副業を継続することが可能です。
- 副業での勤務時間を週20時間以内とする
条件を満たす限り、失業保険中に副業を行うことは可能ですが、副業した日をハローワークに申告します。申告せずに副業をした場合は、失業保険の不正受給とみなされ、受給停止だけでなく納付命令(いわゆる3倍返し)が下ることもあります。
就職活動ができない・したくない場合
失業保険の受給条件のひとつに「妊娠・出産・育児・病気やケガですぐに就職できない人」があります。失業保険は、失業者を金銭面で支援しつつ早い再就職を促す制度です。このため、すぐに就職活動ができない人は失業保険が受給できません。
ただし、妊娠・出産・育児・病気やケガを理由とした受給期間延長の申請が可能です。
受給期間延長を申請すると、失業保険の受給期間を最長4年まで(病気やケガが理由の場合は最長3年まで)延長できます。つまり、就職活動ができない期間分だけ失業保険の給付開始を保留にしておくことで、就職活動ができる状態になってから失業保険を受給することができます。
年金を受給している場合
60〜64歳で離職した場合も、失業保険を申請できます。ただ、失業保険と特別支給の老齢厚生年金(65歳になるまで支給される老齢年金)は並行して受給できません。失業保険を受給する場合は、特別支給の老齢厚生年金は全額支給停止となるため、どちらを受給すると得かを算出してから申請することをおすすめします。
失業保険をもらうメリット
失業保険(基本手当)を受給するメリットは、失業中であっても金銭的な支給を受けられることです。
離職理由として自己都合退職と会社都合退職とがあり、失業保険の受給という観点からは、自己都合退職ではなく会社都合退職のほうが、はるかにメリットがあります。
会社都合退職の場合は自己都合退職の場合と比べ、失業保険の給付期間が長く、給付開始時期も早くなるためです。
失業保険の受給という観点からは、自己都合退職をあえて選ぶことにメリットはありません。
失業保険をもらうデメリット
失業保険(基本手当)の受け取りは、被保険者の当然の権利であるため、失業保険を受給したからといって何らかの不都合が生じることはありません。
ただ、自己都合退職の場合は3ヶ月の待期期間が設けられ、その期間中は失業保険が支給されないことは知っておくべきです。給与も失業保険も受け取れないという期間が発生することになる点は、デメリットと言えそうです。
会社都合退職の場合でも、失業保険を受給すること自体にデメリットはありません。
ただ、再就職活動時に提出する履歴書に、自己都合退職の場合は「一身上の都合により退職」と記載できますが、会社都合退職の場合は「会社都合により退職」と記載することになります。面接などでも離職理由を細かく追及されることが予想されます。
また、失業保険の給付期間が自己都合退職の場合よりも長いとはいえ、受給中は基本的に働くことができないため、不安を抱くこともあるでしょう。
失業保険を受け取るまでの流れ(ステップ)
離職してから失業保険(基本手当)を受け取るまでの流れをステップごとに説明します。
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離職
失業保険を受け取るには、会社が発行する「離職票」が必要です。離職票は、離職したことを証明する公的な文書で、ハローワークでの受給手続きで必要になります。
会社によって、退職者に離職票の要不要を聞き必要なら発行、退職者全員に発行、退職者からの要望がなければ発行しないなど、対応が異なっているのが現状です。
退職後に失業保険を受け取る場合は、退職前に会社に離職票の発行を申し出ておきましょう。
離職票は、退職後に会社から自宅に郵送されてくることがほとんどです。
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受給資格の決定
退職後、ハローワークに出向き、失業保険の受給資格と離職理由の確認を受けます。
失業の状態にあり、かつすぐに働けるかどうかが確認されます。
ハローワークが確認する点は、「就職する意思といつでも就職できる能力があり、積極的に求職活動を行っているにもかかわらず、就職できない状態であること」です。
受給資格の決定後、「雇用保険受給資格者のしおり」が交付されます。
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雇用保険説明会
受給資格決定の約1週間後に「雇用保険説明会」があります。
指定された開催日時に再びハローワークに出向きます。
雇用保険説明会では、受給資格者のしおりに基づき、雇用保険の受給中の諸手続きや失業認定申告書の書き方などの解説を受けます。
この説明会のときに、雇用保険受給資格者証が交付されます。
後で説明する、原則4週に1回の失業認定日にハローワークに出頭する必要がありますが、失業認定日がいつなのかも雇用保険説明会のときに通知されます。
上記、雇用保険受給資格者証の例では「3-木」という記載が失業認定日を示しており、この受給者の場合、失業認定日は必ず木曜日となります。何月何周目の木曜日なのかは配布されるカレンダー等で確認できます。
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待期満了
7日間の待期期間が経過すると待期満了となります。また、上記で説明したとおり、自己都合退職の場合は給付制限があるため、待期満了の翌日からさらに3ヶ月間は失業保険が支給されません。
基本手当の支払いは預金口座振り込みとなるため、待期満了となっても特に連絡が来たりするようなことはありません。
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失業の認定
受給資格決定から約3週間後が、一回目の失業認定日となります。
指定される失業認定日にハローワークに出頭して、仕事をしていないか・求職活動をしたか・すぐに働ける状態かどうかの確認を受けます。
認定日は、病気・看護・採用試験の受験など、やむを得ない事情がない限り変更することができません。
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基本手当の支払い
失業の認定を受けてから1週間程度で指定した普通預金口座に1ヶ月分の失業保険が振り込まれます。
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原則4週に1回の失業認定日
失業保険の給付開始後も、原則4週に1回の失業認定日にハローワークで失業の認定を受けます。確認される内容は初回の失業認定日と同様ですが、初回以降も必ず本人がハローワークに出頭しなくてはいけません。
失業認定日から次の失業認定日の約4週間で、原則2回以上の求職活動実績が必要ですが、ハローワーク内での職業相談も求職活動実績として認められます。
失業認定日には必ずハローワークに出向くので、職業相談も一緒に行っておくと良いでしょう。職業相談では失業保険の手続き時に交付される「ハローワークカード」を提示する必要があるため、雇用保険受給資格者証とセットで保管しておきましょう。
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支給終了
給付日数分の給付が終了すると支給終了となります。失業保険の給付中に再就職した場合も支給終了となりますが、給付残日数等の条件により、再就職手当が受け取れることがあります。
失業保険をもらわない方が良い場合はある?
失業中でも金銭的な支援が得られる失業保険(基本手当)ですが、受け取ることで逆に損をしてしまうケースもあります。
離職後にすぐ再就職する場合
離職後すぐに再就職できる見込みがある場合、失業保険は全額受け取らないほうが良いケースもあります。
失業保険の受給中に早期の再就職をした場合、一定の要件を満たしていれば再就職手当としてまとまった金額が受け取れるのです。
再就職手当は次の式で算出できる金額になります。
再就職手当=支給残日数×基本手当日額×給付率
例えば、給付日数が120日で基本手当日額が5000円のAさんが、失業保険の受給中に再就職を決めたとします。再就職した時点で、支給残日数が80日(給付日数の3分の2以上)だった場合、Aさんは次の再就職手当を受け取れます。
5000円×80日×70%=280,000円
再就職手当は、再就職先からの給与とは別に受け取れるので、すぐに再就職して再就職手当を受け取ったほうが得な場合があります。
再就職手当の受給条件がいくつかあり、再就職先の目処が立っている人が注意すべきなのは、「仕事の開始が待期満了後であること」という条件です。
失業保険受給の手続き後の7日間は待期期間となりますが、待期期間中に就職し仕事を開始した場合、再就職手当は受け取れません。
将来の予期せぬ離職に備えたい場合
失業保険は雇用保険の被保険者であった期間が長いほど、より多くの手当を受け取れるしくみになっています。
例えば、自己都合退職の場合でも、次のように雇用保険に加入していた期間の長さにより給付日数が異なります。
被保険者であった期間 | 10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
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給付日数 | 90日 | 120日 | 150日 |
※離職した日の満年齢65歳未満共通
また、雇用保険の加入期間のカウントは、一度失業保険を受給するとリセットされます。
一方、雇用保険の加入期間は、離職日と次の仕事の就職日の空白期間が1年未満であれば、加入期間を合算できます。
よって、「次の仕事はすぐ見つかる見込みだが、その先の予期しない離職に備えておきたい」という場合には、雇用保険の加入期間を蓄積しておくために、失業保険をあえて受給しないことも賢い選択です。
万が一、次の就職先をやむを得ない理由で離職することになった場合、より長い給付期間で失業保険を受け取れるため、安心感が増すでしょう。
まとめ
離職後に、「実は失業保険をもらえない」と知っても手遅れです。確実に失業保険をもらうためには、退職前に受給資格を確認しておくことが大切です。また、あえて失業保険をもらわないという選択が功を奏する場合もあります。
退職前は、精神的にも平静を保ちにくい状況であることも多いですが、冷静かつ慎重に準備して、離職後の新しい生活に備えましょう。