副業元年と呼ばれる2018年以降、副業を容認する企業も、副業もする人も増えてきました。
一方、副業の定義はあいまいで「どこからが副業か」を答えるのは難しいものです。
副業を始める前に知っておくべきことも含めて、副業の定義を紹介します。
目次
そもそも副業とは?副業の定義とは?
「副業」という言葉だけが独り歩きし、実は副業の定義はあいまいです。
「副業」とは法律用語ではなく、法令上は副業に対する規制はないためです。
内閣府「経済財政白書 平成23年度 年次経済財政報告」によれば、副業とは「一人が複数の仕事をすること」と定義できます。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構「企業における副業の取扱いとその変遷~ JILPT調査結果より ~」では、副業を「就業時間外に行う収入を伴う仕事」と定義しています。
また、本業の就業規則で副業禁止と規定されている場合、あくまでも禁止しているのは勤務先の企業であり、法律による規制ではないことは覚えておくべきです。
複業・兼業・パラレルキャリアの定義
副業と似た用語に、”複業”・”兼業”・”パラレルキャリア”があります。ではこの3つはどのように定義できるのでしょうか。
複業
労働政策研究・研修機構「日本労働研究雑誌 2016年11月号」を参考にすれば、複業とは「複数の仕事に従事すること」と定義できます。複業で行う仕事には主・副という関係はなく、単純に仕事を複数持つことと言えそうです。
兼業
企業が副業解禁へ大きく舵を切ったきっかけとなった、厚生労働省による2018年改訂版「モデル就業規則」には、次のような記載があります。
(副業・兼業)
第68条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
兼業は「副業と同義」として扱われています。
パラレルキャリア
中小企業庁「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する調査事業研究会提言」には、次のような記載があります。
兼業・副業の促進を図ることで、パラレルキャリアを望む者を(~中略~)応援する社会(パラレルキャリア・ジャパン)を目指していく。
このように、パラレルキャリアとは「副業や兼業により実現できるキャリア」と定義できそうです。
禁止されているのに、副業をしているのがバレたら解雇?
副業禁止の企業で副業した場合は、解雇処分になってしまうのでしょうか?
まず、就業規則で禁止されている副業を行った従業員を解雇したい企業が、最低限満たしておかなくてはならない条件を確認しましょう。
懲戒解雇規定が就業規則に定められていること
懲戒解雇するには、必ず就業規則で「懲戒解雇」の規定を設けておかなくてはいけません。
「懲戒処分として解雇される可能性があること」、「どのような場合に懲戒解雇が適用されるのか」がきちんと書かれている必要があります。
就業規則の届け出が行われ周知されていること
労働基準監督署に就業規則を届け出ていることと、社員に周知されていることが必要です。
労働基準監督署への届け出は、労働基準法で規定されていることで、常時10人以上の従業員がいる会社では、就業規則の作成および所轄労働基準監督署への届け出が義務付けられています。
第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。
三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
事実関係の確認が行われていること
懲戒事由に該当する違反行為があったのかが明らかではない場合、懲戒処分を行えません。
会社の一方的な決めつけにより懲戒処分してしまうと、懲戒事由なしと扱われ、処分無効となる可能性が高まります。
企業は、懲戒処分を下す前に、必ず事実関係を確認し、当該の従業員の釈明を聞く機会を設けなくてはいけません。
このように、就業先で禁止されている副業をしているのがバレたとしても、即解雇とはなりません。
副業が禁止されるのはなぜ?
株式会社リクルートキャリアによる「兼業・副業に対する企業の意識調査2018」によると、71.2%の企業が副業を禁止しています。
副業禁止の企業で副業し、懲戒解雇処分が妥当と判断された裁判事例から、副業が禁止される理由を考えてみます。
東京貨物社事件
展示会場の賃貸等の事業を行う企業において、営業本部長営業企画室課長の職にあったA氏が、勤務先企業と同業のX会社を設立。勤務先企業と競合する副業を行っていました。
勤務先企業は、同社の就業規則に違反したとして、出勤停止処分後にA氏を解雇しました。
A氏は解雇を不服として裁判所に提訴したものの、裁判所は就業規則に違反したことは明白として正当な解雇と認めています。
勤務先会社の就業規則では、在籍したまま許可なく他社に就業しないこと、およびその内容によっては出勤停止処分や即時解雇をすることが定められていました。
合資会社阿部タクシー事件
タクシー会社の従業員B氏が自身のダンプカーを購入し、他の土建会社に雇用されて継続的に土砂運搬業務に従事していました。
B氏は二重勤務を禁ずる勤務先タクシー会社の就業規則に基づき、懲戒解雇されています。
懲戒解雇処分後、B氏は処分を不服とし提訴しましたが、高額なダンプカーを購入しており限定的なアルバイトとは言えないことと、懲戒解雇されるまでの期間中、有給休暇や病欠の取得手続きをせずに欠勤していたことから、就業規則に定めた懲戒解雇が有効と認められました。
同じく、「兼業・副業に対する企業の意識調査2018」では、兼業・副業を禁⽌している企業について、副業を禁止している理由も調査しています。
1位 | 社員の⻑時間労働・過重労働を助⻑するため | 44.8% |
---|---|---|
2位 | 労働時間の管理・把握が困難なため | 37.9% |
3位 | 情報漏えいのリスクがあるため | 34.8% |
4位 | 競業となるリスクがあるため、利益相反につながるため | 33.0% |
5位 | 労働災害の場合、本業との区別が困難なため | 22.8% |
結果は上記のとおりとなりましたが、紹介した裁判事例は両方とも1位から5位のすべてに当てはまる副業です。特に、機密情報を漏えいしてしまうリスクを伴う副業や、競業として本業の利益を阻害してしまう副業であるため、悪質と結論付けられています。
企業が従業員の副業を禁止している場合、その理由は自社のビジネスに影響が出る可能性があるためという背景があることは、知っておくべきです。
副業がばれない方法はある?
まだまだ副業を禁止している企業は多いですが、バレずに副業をする方法はあるのでしょうか。
まず、自ら副業について口外してしまったり、副業と本業の連絡先を取り違えてしまってバレることを防ぐには、個人で注意するしかありません。
多くの場合、副業が知られるきっかけになるのが住民税の変動です。
副業による所得は住民税の対象になります。
確定申告をすると、原則として、市町村が副業での所得に対する住民税額を記載した「税額決定通知書」を本業の会社宛に送付します。
会社側はこの通知に基づき、税額を毎月の給与から天引きして納付する「特別徴収」という制度を適用します。
よって、会社は税額決定通知書の住民税の税額から、会社の給与所得以外にどのくらいの稼ぎがあるのかを推測することが可能です。
会社に税額決定通知書が送付されないようにするには、確定申告書の第二表である「住民税に関する事項」の欄で、会社からの給与以外の所得に関する住民税の納付方法を指定します。
- 給与から差し引き
- 自分で納付
の2つの選択肢のうち、「自分で納付」に〇をつけましょう。
「自分で納付」にしておけば会社に税額決定通知書が送付されることがありません。
企業が次々と副業を解禁する理由は?
以前は副業を禁止していた企業でも、副業解禁の流れに乗り、副業を容認しつつあります。
副業解禁にはどのような背景があるのでしょうか。
副業が解禁されるようになった理由
企業が一気に副業解禁に舵を切ったきっかけが、厚生労働省発行の「モデル就業規則」が改定したことです。
各企業には、労働基準法第89条に基づき、就業規則を作成して労働基準監督署に届け出る義務がありますが、各企業が就業規則を作成するときに参考にすべきとされるものが「モデル就業規則」です。
企業の就業規則の雛形である「モデル就業規則」が2018年1月に改定され、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という実質副業を禁止している文言が削除されました。
同時に、「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。」と明記している「副業・兼業」の章が新設されました。
また、厚生労働省は「モデル就業規則」の改定と同時に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」も発行し、副業を促進することで社会全体にも好影響が見込めると明記しています。
副業・兼業は、社会全体としてみれば、オープンイノベーションや起業の手段としても有効であり、都市部の人材を地方でも活かすという観点から地方創生にも資する面もあると考えられる。
このように労働基準法を定めている政府が副業を推進しはじめたのですから、元々副業を容認したいと考えていた企業では特に、副業解禁に向かうのは当たり前といえます。
副業解禁によるメリット・デメリット
副業解禁には、労働者と企業の双方にメリットもデメリットも生じます。
労働者側のメリット・デメリット
紹介した、厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、副業解禁により労働者側には次のようなメリットがあるとしています。
- スキルアップにつながる
- 本業から所得を得ながら、自分がやりたいことに挑戦できる
- 所得が増える
- 本業を続けつつ起業や転職の準備ができる
一方、副業解禁によりデメリットもあると述べています。
- 就業時間が長くなるため健康管理が必要
- 本業の職務専念義務・秘密保持義務・競業避止義務を怠る可能性がある
本業以外の仕事から知識・技術を吸収することによるスキルアップももちろんですが、新しいことをしながらも本業からの収入は維持できるという「リスクヘッジ」が労働者側の一番のメリットといえます。
企業側のメリット・デメリット
同じく「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、副業解禁により企業側には次のようなメリットがあるとしています。
- 労働者が本業では得られない知識・スキルを獲得できる
- 労働者の自律性・自主性を促せる
- 優秀な人材の獲得・流出が防止できる
- 労働者が社外から獲得した新たな知識や人脈により、事業機会が拡大する
また、副業解禁の企業側のデメリットは次のとおりです。
- 就業時間の把握や健康管理への対応が必要
- 職務専念義務・秘密保持義務・競業避止義務が守られない可能性がある
社外から獲得した人脈の利用というメリットと秘密保持義務が守られないというデメリットは、裏返しの関係にあり、各企業でメリットを取るかデメリットを取るかの判断が迫られます。
本業と両立しやすい人気の副業
副業の種類は様々ですが、本業と両立しやすい・誰でもできる・リスクが少ないという観点から人気の副業を紹介します。
アンケートモニター
「アンケートモニター」とは、モニターサイトに登録し、サイト内のアンケートに回答することでポイントを稼ぐというものです。
質問に対し、回答を記入欄に入力するだけの作業で誰でも簡単にできます。
例えば、「1週間のうちよく見るTV番組は何ですか?」という質問や、「好きなアパレルブランドは何か?好きな理由は?」などの質問があり、回答には特別なスキルが不要なものばかりです。
アンケートモニターはスマホ1台あれば、通勤途中などのスキマ時間でいつでもできるため、会社員には都合が良い副業です。
一方、誰でもできる作業なので、得られる報酬はお茶代程度と考えましょう。
○アンケートモニターの平均相場:月2,000円〜10,000円程
試験監督
語学など各種試験や検定の試験監督も副業しやすい仕事です。
試験は、土日祝日に行われるものが大半なので、平日勤務の会社員なら本業の休日に働けます。
試験監督の仕事は多くが1日限りの単発で、長くて2-3日程度です。毎月の定期収入は見込めませんが、朝から夕方までの案件が多いため一日でまとめて働けます。
○試験監督の平均相場:月5,000円〜20,000円程
UberEats(ウーバーイーツ)配達員
料理のデリバリーサービス「ウーバーイーツ」は、2020年初旬には新型コロナウイルス対策で、外食ではなく料理を配達してもらって自宅で食事をするという人が急増したことで、一気に有名になりました。
ウーバーイーツの配達員は、料理の注文が入ると料理を店舗に取りに行き、受け取って注文者の元に配達します。また、報酬は配達に要する移動距離や配達数により決まります。
勤務時間が自由に決められるので、1日に1時間だけなど無理なく働くことができます。
○UberEats(ウーバーイーツ)配達員の平均相場:月10,000円〜60,000円程
YouTubeでの動画投稿
動画をYouTubeに投稿し、広告収入を得るYouTuberも副業として人気です。
勤務時間が完全に自由で、勤務地に出向く必要もなく、本業との両立が非常にしやすいビジネスです。
ただ、報酬を得られるYouTuberになるまでに視聴者を増やす努力が必要で、報酬発生まで最低でも3ヶ月かかるといわれています。
○YouTubeでの動画投稿の平均相場:月0円〜上限なし
シェアビジネス
手持ちの使っていない服・家電・車などを人に貸し出すことで収入を得る「シェアビジネス」は、初期費用がまったくかからないため副業として始めやすいビジネスのひとつです。
例えば、出張する期間だけ自宅を貸し出すことも可能です。
貸し借りはWebサービスやアプリで簡単に成立でき、ますます敷居の低いビジネスになっています。
○シェアビジネスの平均相場:月100円〜数万円
ネットワークビジネス
ネットワークビジネスは、会員が勧誘により別の会員を増やすことで利益を得るビジネスです。
仕組みを売る・お金でお金を生むというビジネスで、作業時間はまったく自由で誰でもできるため、本業と両立しやすい副業として人気です。
ネットワークビジネス自体は新しいものではありませんが、以前は直接電話をかけるくらいしか集客方法がありませんでした。現代では、インターネットの発達により、Web・アプリ・動画などあらゆる集客手段があり、格段に参入しやすくなっています。
○ネットワークビジネスの平均相場:月5,000円〜上限なし
副業とみなされにくい仕事4つ
副業とみなされにくいのは、趣味など個人的な活動との境界が曖昧な仕事です。
単発のアルバイト
イベントの会場整備や試験監督など、月に数回の単発のアルバイトは副業とみなされにくい仕事です。
単発のアルバイトの場合は、副業先のクライアントとの継続した強い雇用関係があるとは言えず、副業とはみなされにくくなります。
ハンドメイド商品の販売
アクセサリーや洋服・バッグなど、一点物のハンドメイド商品を製作して販売する仕事も副業とはみなされにくいでしょう。
大規模で販売していない限り、ハンドメイド作品制作という趣味の一環として考えられることが大半です。
投資
投資は各企業が定める就業規則において、副業の定義にあてはまらないことが多く、一般的に副業には該当しません。
理由は、投資は個人的な資産運用とみなされるためです。
クラウドソーシングから取得した仕事
「Lancers(ランサーズ)」や「CrowdWorks(クラウドワークス)」など、クラウドソーシングサービス経由で取得した仕事は、副業とみなされにくい傾向があります。
正確には、副業なのは明らかですが、クライアントと副業者の間にクラウドソーシングサービスが入って調整を行うため、副業をしていることが分かりにくくなります。
副業をする際の注意点
どのような副業をする場合でも、共通して注意すべき点があります。
副業詐欺に注意
日本法規情報株式会社による「相談サポート通信 相談者実態調査」によると、副業でのトラブルの第1位は、「副業を利用した詐欺に遭った」で25%となっています。
特に、生活難のために副業をはじめた場合は精神的に追い込まれているため、通常なら引っかからないような手口にも騙されてしまうことがあります。
副業をする前に、各案件を次の視点で検証しましょう。
話が出来すぎた副業でないこと
「稼げる」などと言い切る副業は避けるべきです。
現金の受け取りまでのハードルが高すぎないこと
現金で報酬を受け取るまでに、何度も手続きが必要など現金化のハードルが高い案件には警戒しましょう。
スケジュール管理を確実に行う
本業をおろそかにしないようにと言っても、副業にも責任が伴います。
本業と副業とでスケジュールがバッティングしないように、確実なスケジュール管理をしましょう。
また、本業が忙しい時期は副業を入れないなど、余裕を持って副業の計画を立てましょう。
家族から了解を得る
副業は継続することが大切です。副業は就業時間外に行うため、家族には少なからず負担をかけることになります。副業により家族が不満を抱えることにより、副業の継続が難しくなることも考えられます。
また、副業は家庭をないがしろにしてまで行うものではありません。同居の家族には副業の内容や副業により得られる報酬額などを説明し、了解を得ておきましょう。
本業と副業のコミュニケーションツールは分ける
メールのアドレスやデータの保管場所など、本業用と副業用は確実に分けましょう。
本業用と副業用のデータを同じストレージに保管していた場合など、万が一取り違えてしまうと、本業用のデータを副業先に誤送信してしまうなどのリスクが生じます。
まとめ
どこからが副業かは定義しにくいものです。ただ、各企業も頭ごなしに副業を禁止しているのではありません。
本業に影響が出てしまう・競合に情報が漏れてしまう可能性があるなど、従業員の副業により自社のビジネスに支障が出ることを懸念しています。
副業を始める前に、本業の就業規則を確認し、副業を容認・禁止する理由まで読み取るようにしましょう。